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Thursday, May 18, 2017

『ヒットの崩壊』柴那典(書評)

【5月18日特記】 Amazon の紹介文には激変する音楽業界の潮流を明らかにする本だとある。

僕はこの手の本を読んでいるほうだと思うが、割合厳選して読んでいるつもりなので、そんなに外れたことはない。この本もなかなか面白かった。

まず良いのは、楽曲や歌詞の分析という面ではそれほど深く掘り下げてはいないが、決して手付かずではなく、時代の傾向としてちゃんと押さえていること。音楽に関する本が音楽を語らずマーケティングばかりになってしまうほどつまらないことはない。著者はそのことをよく知っている。

その上で、著者個人の趣味や印象だけで語ることのないよう、数値的な面での検証を重ね、そして定性的な分析として、数多くのミュージシャン(小室哲哉やいきものがかりの水野良樹ら)や各界で音楽に携わる様々な関係者のインタビューを実施し、そこから見えてくるものをしっかりと再構築できている。

日本のロックやポップスに興味と関心を抱いてきた者でもめったに知らないような新奇なエピソードやデータも示してくれている。時代を追ってその時どきの歌手やヒット曲や番組、イベントなどの構造を分かりやすく紐解いてくれる。その例は極めて豊富で、かつ適切である。

楽曲がヒットするにはそれなりのからくりがあるものだが、そのからくりは時代によって異なっているのだということをしっかりと見せてくれる本である。このタイトルを読むとともすれば針小棒大に語って危機感を煽るだけの文書に見えるかもしれないが、決してそうではない。

何よりも良いのは、この本が全体として近代から現代にかけての歴史書になっていることだ。

音楽というものは決して単純なものではない。そして、それをお金に変えるビジネスの世界も同様に単純ではない。安物のジャーナリストはすぐに何かを単純化して、それを世の趨勢とか必然とかであるような書き方をするのだが、それでは音楽界の展望は開けないだろう。

音楽とビジネスの両方にしっかりと耳を傾けてきた者にしか書けない内容になっていると思った。

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