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Sunday, May 14, 2017

映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』

【5月14日特記】 映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』を観てきた。石井裕也監督の映画を久しぶりに観たいなと思って。

石井監督自身『バンクーバーの朝日』以来3年ぶりの作品だが、僕はそれを観ていないので『ぼくたちの家族』以来4年ぶりということになる。

オープニングにはちょっと感心した。タイトルからして青っぽい色から入るかと思ったら、いきなり赤色で攻めてきた。

冒頭は確かに夜の映像だが、ビル街の赤い灯りのほうが目に飛び込んでくる。その後、日の丸の赤、そして赤い服のジョガー。

監督名だけで選んでいるので全然知らなかったのだが、タイトルになっているこの素敵なフレーズはなんと21歳で中原中也賞を獲った詩人・最果タヒの、最新となる第4詩集の題である。

僕は詩集なんて滅多に読まないが、でも、決して読まないわけではなくたまに読むので、一般人と比べれば詩が好きと言えるのかもしれない。

詩が原作だからこの映画も勢い「映像詩」になる。そこはとても大事なところだ。詩なんて解らないと投げ出したら終わりだ。解らないという感覚に襲われたら、解らないまま味わうのが詩だ。意味ではなく味が、目や耳から脳に入ってくるはずだ。

原作と言っても、最果タヒの詩集にこの映画の主人公である美香(石橋静河)や慎二(池松壮亮)が登場するわけではない。他の脇役も含めて全て脚本を書いた石井裕也の創作である。つまり、今風の表現をすれば、最果タヒの詩に「インスパイアされて」ということになる。

ただ、その詩のことばの多くを、監督は美香に喋らせている。この言葉が生きている。

映像詩という言い方がふさわしい映画なので、それほどストーリーはない。監督やパンフレットは「ボーイ・ミーツ・ガール」と言っているが、その言葉が通常表すような甘くてドキドキするようなイメージはない。

美香は看護師だが、それだけでは食えず、夜はガールズ・バーで働いている。つきあっていた男には棄てられ、彼氏はいない。いつもぶすっとして、何かにつけて後ろ向きな感じ。

慎二は工事現場で働いている。年収200万に届かないギリギリの生活。左目には障害を抱えている。現場の同僚の智之(松田龍平)、岩本(田中哲司)、フィリピン人のアンドレス(ポール・マグサリン)たちとそれなりに仲良くやっているが、何かにつけて投げやりな感じ。   

この2人が出会う。不思議な偶然で何度も何度も出会う。しかし、何回出会っても却々恋は始まらない。そういうボーイ・ミーツ・ガールである。

そんな話の中に紛れて、最果タヒでなければ到底書けないフレーズがポツリポツリと出て来る。結構耳に引っ掛かる。こういうあまり派手な展開のない映画は観ていて退屈するものだが、尖った言葉にひっかかって退屈する暇がない。

そして、全編ロケ(ほとんどが都内)の映像がとてもリアルで、同時にリリカルである。大きな満月だけでなく、ネオンライトも飛行船も、クレーンも建材も、硬質であるがゆえにリリカルに見えたりもする。

撮影は数多くの秀作を残してきた鎌苅洋一である。

「夜空はいつも最高密度の青色だ」という言葉から感じるものは人それぞれだろう。「決して真っ黒じゃないんだ」ということを希望の象徴と捉える人もいるだろう。あるいは夜でも眠らない都会の過酷さを感じる人もいるかもしれない。

僕が感じ取ったものは連続性である。夜の空と昼の空は決して別々ではない。昼の空の青の密度をどんどん上げていくと、それは夜の空になる。──そのことを肯定的に受け止めるか否定的に解釈するかというようなことではなく、ただ、繋がっているということに少し衝撃を覚えるのである。

もちろん、そんな風に解釈することが詩を読むことではない。大事なのは自分なりの全体像を持ち得るかどうかだ。

石井監督は間違いなく自分なりの明確な全体像を以て撮影に臨んだはずだ。びっくりするほど良い映画に仕上がっている。

主演の石橋静河は演技者としてのキャリアは浅い人で、僕も全然知らなかった。池松壮亮によると、監督は撮影前に彼女を追い込むことから始めていたというから恐ろしい(笑)

最初はブスに見えた石橋が、映画が進むに連れてだんだん可愛く見えてきたから不思議だ。

世界を呪うようでいて、世界を寿ぐようでもある。とても沁みる言葉に溢れた映画だった。自転車の二人乗りのシーンで、美香がどんなに暗い話ばかりしても「そっか」としか答えない慎二がとても素敵だった。

「塗った爪の色を、きみの体内に探したってみつかりやしない」

「きみがかわいそうだと思っているきみ自身を、誰も愛さない間、きみはきっと世界を嫌いでいい」

詩であれ映画であれ、多義的であるからこそ沁みるものもあるのだ。

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