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Sunday, April 09, 2017

映画『ブルーハーツが聴こえる』

【4月9日特記】 映画『ブルーハーツが聴こえる』を観てきた。

「ザ・ブルーハーツ30周年企画映画」と銘打ってある。ブルーハーツの6つの曲にインスパイアされて、と言うか、6つの曲と同じタイトルの6つの作品を6人の監督が作ったオムニバス。それぞれの作品にはタイトル曲が使われている。

ちなみに僕はブルーハーツの熱心なファンでも何でもないが、彼らの作品の中に好きな曲はたくさんある。

僕は MAKUAKE でこの映画の存在を知った。2014年にクランクインしたが、何らかの理由で資金難に陥り、クラウドファンディングで残りの資金を調達した。僕もそこに乗っかって、飯塚健監督と井口昇監督の作品を微力ながら支援させてもらった。

サポーターになったくらいだからひと通り説明は読んでいたはずなのだが、例によって他にどんな監督が撮っていたのか、いや、そもそも何作品のオムニバスなのかさえ忘れていたのだが、ともかくその2監督を目当てに観に行った。

1作目は「ハンマー(48億のブルース)」。後藤一希(ごとう・いつき 尾野真千子)は同棲している彼に浮気をされていながら踏ん切りがつかず悩んでいる(全然関係ないが、最初のシーンの尾野真千子のファッションには度肝を抜かれた)。

彼女が勤めているアンティーク家具店の主人や、そこに入り浸っている女子高生2人は彼女に対して何かとキツイことを言いながら、なんとか彼女を励まそうともしている。

あ、これが飯塚健監督だ、と一発で分かった。

伊藤沙莉や萩原みのりが出ていると言うだけではない。丁々発止のやり取り、と言うか、減らず口の叩き合いをしながら、長い長いシーンをワンカットで撮る──これはまぎれもなく『REPLAY & DESTROY』や『ランドリー茅ヶ崎』の飯塚健のテンポだ。

で、この、あまり何でもない起伏の少ない話が、収まるところに収まって、ブルーハーツの歌がかぶってくると、なんだか良いのである。

2作目は「人にやさしく」。おいおい、この曲で舞台は宇宙かよ。ヒューマノイドまで出てくる。ちょっと驚いた。

囚人の護送船に隕石か何かが衝突して、護送船は致命的な打撃を受け、コースから外れてしまう。後は死を待つのみである。そこには看守を含めて6人の男女(市原隼人、高橋メアリージュン、浅利陽介、瀧内公美、加藤雅也、西村雅彦)が乗っている。

これはやや芝居がかった作品である。舞台で演劇を見ているような台詞が続くかと思ったら、いきなり激しい擬斗になったりする。最後はなんだそりゃとツッコミどころ満載で終わるのだが、これも曲がかぶってくるとサマになる。

これは誰が監督なのかとエンドロールを見ると下山天。下山天と言われて何を撮った人か俄に思い出せないのだが、何かを観た記憶はあり、ああ、確かこういう映画を撮る人だったなどと勝手に思う(笑)

3本目は「ラブレター」。斎藤工が出ているので、これが井口昇監督だろうと察しがつく。

今は脚本家になっている大輔(斎藤工)の中学時代の恋愛の話。当時大輔はデブの撮影オタク、当時からの親友である純太(要潤)も今と違ってチビで、ふたりともモテない中学生だった。

その彼が、同級生の彩乃(山本舞香)に対する当時の片思いを小説に書いているうちに、死んでしまった彼女への思いが募り、思い余って純太もろともトイレの中に吸い込まれて中学時代にタイムスリップしてしまう。

如何にも井口昇らしい展開だが、今回はいつもの悪ノリは封印して(と言っても全体にコメディではあるのだが)、しっとりとした良い話になっている。

テーマ・ソングの『ラブレター』もとてもうまく織り込んであって、途中で何人かの女性客のすすり泣きが聞こえてきたくらいだ。

これは中学生の頃も多分デブで(今でもデブだが)モテなかった井口の実体験を踏まえているのではないだろうか?

山本舞香がものすごく可愛い。こんな風に女の子を撮らせるととても巧い監督なのである。

4本目は「少年の詩」で、文字通り。親子の話。時は1987年。団地に住むシングルマザーのユウコ(優香)と一人息子の小学4年生・健(たける、内川蓬生)。

ユウコはスーパーのパートで、今日は健の誕生日なのに、スーパーでTVのヒーローのショーを手伝うので遅くなると言う。健はスーパーのチーフ永野(新井浩文)のせいだと不機嫌になる。その永野はユウコにぞっこんなのだ。

これまた良い話で、一体誰が監督なのかとエンドロールに目を凝らすと、なんと清水崇である。ホラーでない清水崇。この瑞々しい演出は見事だった。

で、さすがに6作品もあるとこの辺でそろそろ飽きてくる、と言うか、疲れてくる。しかも最後の2作が重いのである。

その第5作がここまでとガラッと作風の異なる「ジョウネツノバラ」。

永瀬正敏と水原希子の2人しか出てこない。しかも、水原希子は冒頭で死に、あとはずっと死体の役である。どうやら永瀬が企画したらしく脚本も永瀬が書いている。と言っても台詞は全くない。

妻(なのかどうか、年が離れているから違うのかもしれないが、いずれにしても彼にとっての愛しい人である)を亡くした男は、やりきれない気持ちから彼女の遺体を盗み出す。

まずは家に連れて帰るが、そのままでは彼女の体は朽ちてしまう。そのことに気づいた男は…。

ここまで来ると、ちょっとそれは違うんじゃない?という気もしてきた。

いや、この作品自体はちっとも悪くないのだが、それのどこがブルーハーツなのかという気もしないではない。他の BGM もふんだんに使っていることだし、単にこの企画の乗っかって前から自分が撮りたかった作品を撮っただけなのではないかという気もする。

ただ、台詞がない分、都市生活でのノイズ(騒音を含む)の使い方がとても巧く、画もきれいだ。監督は工藤伸一。この人は全然知らなかった。CM などを撮っている人らしい。

そして最後はなんと福島原発の話、「1001のバイオリン」。原発の仕事で食っていたのに、3.11 の地震の後、飼っていた犬を置き去りにして家族と東京に逃げてしまった達也(豊川悦司)。

犬のタロウがいなくなったことでいちばんわだかまっているのは、実は息子の圭吾(荒木飛羽)ではなく達也本人だった。東京に来てから仕事が長続きせず何度目かの失業生活をしている達也に妻の絵里子(小池栄子)と娘の杏奈(石井杏奈)は白い目を向ける。

そこへかつての同僚で、未だに福島に残って線量を浴び続けながら働いている安男(三浦貴大)がやってくる。家族の言葉に反発した達也は安男を連れて福島まで犬を探しに行く。

この映画は何と言っても役者の演技が素晴らしい。豊川悦司と小池栄子はともに名優であるが、娘を演じた石井杏奈は『ソロモンの偽証』でキーとなる少女を演じた子。あの時と似た感じの役柄なのだが、少し幅を広げた感じがする。

で、これもこれでとても良い映画なのだが、しかし、これのどこがブルーハーツなのか、と思いながら観ていたのだが、最後の最後に「1001のバイオリン」が流れてくると、これがもう死ぬほどマッチしているのである。

つまりは、こんな風に、誰の心にも、とまで言うと言いすぎかもしれないが、それぞれの心の中にそれぞれのブルーハーツがあるのである。

これは一体誰が監督なのだろうと思ったら李相日だった。そうか、李さん、あんたの頭のなかでは原発とブルーハーツが繋がるんだね、と思った。

長い映画だったが面白かった。支援したほうとしても誇らしい気がする。

ちなみに今日のこの上映回は舞台挨拶付きで、今回は4作目の清水崇監督と優香、内川蓬生の2人の出演者だった。

その清水監督が語った、今回の映画は彼の生まれ故郷でロケしたのだが、彼が小学校4年生の時にはまだブルーハーツはデビューしておらず、仕方なく1987年の小学4年生の話にしたこと、舞台となっているスーパーの名が「とよたや」、そこのチーフの名前が「永野」なのは、同年に起きた豊田商事事件を織り込んでのことだという話は面白かった。

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