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Friday, February 24, 2017

映画『愚行録』

【2月24日特記】 映画『愚行録』を観てきた。既に観た何人かから激賞と酷評の両方を見聞きした。そういう映画を観るのはワクワクする。

最初に書いておくと、(あまりあからさまにする気はないのだが)この映画を論ずるにはどうしてもある程度結末に触れる必要がある。全くの先入観なくこれから観に行きたいという方は読まないでほしい。

全般に画作りの巧みな映画だと思った。雨の日のバスの窓外から乗客を映し、前方から後方にパンして行くと主人公の田中武志(妻夫木聡)が座っているという冒頭の撮り方からして面白い。

そして、ミステリものにおける記者=社会正義の担い手、であり、往々にして自分の一方的すぎた正義感に気づいて主人公が落ち込む、という図式から外れて、週刊誌記者である田中がバスの中で転んで足を引きずってみせるという最初の展開が秀逸である。

これからこの物語はどちらに転がって行くのだろうとハラハラさせる。そして、5拍子の BGM が不安感を高める。こういう変拍子の使い方は巧いなと思った。

何よりも最初に言うべきことは向井康介の脚本がとにかく手際が良いということ。

田中が1年前の一家惨殺事件を追う話と、田中の妹・光子(満島ひかり)が自分の子供を虐待した容疑で勾留されている件とを同時進行させ、田中が取材する相手の話をうまく引っ掛けながら繋いで、事件の全貌を少しずつ明らかにして行く。

田中の取材を受けた男女が、どいつもこいつも不自然なくらい屈託なくべらべら喋る。なるほど、これが愚行録なのか、と思う一方で、しかし、この辺りから少し作り物感が気になり始める。

とは言え、役者たちがとても良い演技をしているので結構ひきずりこまれる。

殺人事件の被害者役の小出恵介と、取材対象となった2人の男を演じた眞島秀和、中村倫也が特に素晴らしい(何本も観ているが、僕は小出が巧いと思ったのは初めてだ)。もちろん妻夫木、満島の2人も。

そして、ストーリーは突如として大方の予想を裏切り、とんでもない展開になる──とも言えるのだが、中盤からある程度読み切れるところもあった。その読み切れた辺りから少ししんどくなる。

そして、見終わった後味は良くない。

ハッピーエンドにしろというのではない。むしろ僕は取ってつけたようなハッピーエンドが大嫌いだ。最後に救いがなければならないと言うのでもない。悪を描いてはいけないと言うのでもない。

ただ、どんなに痛々しくても悲惨であっても、後味が悪くなってはいけないと思うのである。李相日監督の『悪人』も白石和彌監督の『凶悪』も決して後味が悪くはなかった。この差は何だろうと思った。

人間の普遍性について描けているかと言えばそうではない。どこかに底意地の悪いものを感じるのだ。

パンフを読んだらプロデューサーが「日本に存在する見えないエリートイズムや閉塞性を単に記号的、二元的に描こうとせず」と言っているので少し驚いた。僕にはとても記号的、二元的な映画だと思えたから。

人間全般の愚かさを描いているようでありながら、そこで描かれたものは愚行を重ねてもなんとなく無傷ですり抜けて暮らしている人間と、愚行を重ねた結果引き返せないところに落ちてしまった人間の二元論だと感じた。

では、何故そんな人物を描いたかと言えば、「そのほうが面白いから」と作家が高い所で嘯いているような気がした。まあ、この辺は感じ方の問題である。

ただ何よりも、父親の愚行を目の当たりにしてきた男が、どうして父親と同じ愚行を犯したのかという辺りをもう少し深く掘り下げて丁寧に描いてくれないと、真摯な説得力がないのである。

そういう意味で、安易なセンセーショナリズムに堕ちているように思えた。「ミステリを構成する上ではそのほうが面白いから」と作家が言うのがどうしても透けて見える気がした。

ただ、映画の作りとしては大変巧みな仕上がりだったと思う。見事な構成力だと思った。でも、そもそもこの原作を映画化しようと思った感覚が解らないとも言える。そして、この後味をどう評価するか──その辺りは紙一重である。

さて、こうやって貶していたら、不思議なことに少し後味の悪さが消えてきた。もう一度観たらもうちょっと印象が変わるのかもしれない。

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