『バベル九朔』万城目学(書評)
「よく分からない」にもいろいろあって、「著者が何を意図しているのかさっぱり理解できず全く共感できない」というのもそのうちのひとつだが、今回はそうではなくて、書いてあることがちゃんと理解できなかった、ということだ。
こういう小説を読みつけている人には書いてあることが「ふん、ふん」と頭に入って来るのかもしれないが、僕の場合は終盤にはもう何がどうなっているのか、「さっぱり解らない」というのではなく、「今イチ解らない」のである。
万城目学の本はこれまで『鴨川ホルモー』と『プリンセス・トヨトミ』を読んでおり、両作とも映画も観ているくらいで、ものすごい万城目ファンではないにしても、この世界観は嫌いではない。
でも、今回はあんまり話について行けなかった。
祖父から受け継いたバベル九朔という名の雑居ビルの管理人をしながら作家デビューをめざしている主人公のもとにある日突然全身黒ずくめのカラス女が現れて「バベルは崩れかけている。扉はどこにあるか教えろ」と言う。
その出だしは大変面白い。そこからカラス女の言う「バベル」とは何なのか、この雑居ビルの歴史はどうだったのか、などを小出しにしながら祖父・大九朔の謎と力を解き明かしていく展開も面白い。非科学的ではあるが、茶番ではない。
でも、僕には終盤ちょっと状況が掴みにくくなった。で、掴みきれないまま終わってしまった。そこには結構壮大なドラマがあったし、後から読んだところによると、万城目はまさにビルの管理人をしながら作家を目指していたのだそうで、そういう作家自身の投影がある作品として読んでも面白い。
でも、この手の異界モノを文字で説明し切るのはなかなか骨が折れる仕事なのだろう。僕があまりこういう話を読んできていないということもあるのだろう。結局『鴨川ホルモー』や『プリンセス・トヨトミ』ほど楽しめないまま、「ん?」で終わってしまった。
何と言うか、変な表現だが、設定が『ホルモー』や『トヨトミ』ほどお茶目でないような気がする。
だからと言ってこの作品1つでこの作家を否定しようとは思わない。ただ、この作品は僕とは相性が悪いようなので、早く忘れてしまって、またいつか別の作品を読んでみようというのが、現在の正直な思いである。
うむ、いつも通り表題に「(書評)」と書いたが、今回は書評になっていないな(笑)
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