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Thursday, November 24, 2016

映画『この世界の片隅に』

【11月24日特記】 評判が良いので、映画『この世界の片隅に』を観に行ってきた。

何の予備知識もなかった。オープニングのクレジットに MAKUAKE の文字を見つけて、あ、クラウドファンディングで資金調達した映画だったのかと初めて知ったくらいである。

ストーリーにしても、てっきりファンタジーかと思っていたら、これは第2次世界対戦中の広島を舞台にした、結構哀しいところも多いお話だと分かった。

第2次世界対戦と広島と言えば、僕らの頭にはもちろん原爆のことが思い浮かぶ。しかし、僕らが知っているのは所詮その程度である。主人公が住んでいた呉あたりにまで原爆投下の影響があったのかなかったのかさえ、この映画を観るまで定かではなかった。

戦時中の空襲と言えば、もちろん東京と大阪の大空襲のことは知っている。しかし、広島にもこんなに頻繁に米国の戦闘機や爆撃機が飛んできて、特に軍港の呉は大きな痛手を受けたということは知らなかった。

これはそういう史実を丹念になぞりながら、そこで暮らす人たちの心のひだひだを象った映画だ。いつもぼうっとしていて、好きだった同級生に何も言えないまま彼はいつしか海軍に入ってしまい、突然やってきた縁談に諾とも否とも言えないうちにいつしか結婚してしまっていたすずと、その家族の話である。

すずの声を担当したのはのんである。やや作った感じの抑揚もあったが、呑気な中にどこか哀しい色合いもあり、とても良く合っていた。

そう、そこにあるのは悲しいとか嬉しいとか、そういう単純な感情ではないのだ。人の感情はいつなんどきでも一色では塗りつぶせないのである。そういう複雑なものを複雑なまま、とても上手に描き出している。

これは立派な文学作品だ、と思った。

もちろん、クラウドファンディングで作ったくらいなので、大した制作費はかけられていない。画風の違いということもあるので比較するのは気の毒だが、今年の邦画アニメを代表する『君の名は。』や『聲の形』と比べると、画の深さも動きのスムーズさも迫力も全然及ばない。

だが、ごつごつとした人物描写の中に不思議に繊細なタッチがある。

劇中に出てくるエピソードはそれぞれがなんとなく完結していない感じが残り、そのため作品としてのまとまりに欠けるような印象さえある。だが、それが人生だと作者に言われているような気もする。

僕らの今住んでいる街に爆弾は降ってこない。憲兵もいない。食べるための草を摘むことない。でも、そんな彼らの生き方を、いつしか僕らは自分に置き換えて見ている。とても複雑な、でも、とても優しい想いを抱いて。

見終わってから時間が経てば経つほど印象が深まってくる。そういう映画は文句なく良い映画である。

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