WOWOW『桑田佳祐 偉大なる歌謡曲に感謝』
【10月16日特記】 録画したまま長い間放ってあった WOWOW開局25周年記念『桑田佳祐 偉大なる歌謡曲に感謝 ~東京の唄~』を漸く観た。
タイトル通り桑田がスタジオでビッグ・バンドをバックに昭和歌謡を歌いまくる。戦後間もない頃から昭和の中頃までの。
こんな企画を喜ぶのは日本中で僕ひとりではないか、とまで言うと言い過ぎになるだろうが、しかしこれほどまでに僕にドンピシャリの(と、あえて昭和的な形容をしてみるw)番組はないだろう。
選ばれた曲は全て東京に因んだ曲で、概ね「ムード歌謡」に分類されるものが多い。「演歌」からは少し外れ、多くはラテン由来のリズムに乗り、コード進行も少しジャズっぽく、3声のトニック・コードではなく、6 や 69 で終わったりする。
ボサノバに組み替えた『神田川』を除いては、あまり斬新なアレンジはせず、少しテンションを加えたり、担当楽器を変えたりしてはいるものの、原曲の前奏や間奏の特徴的なフレーズやコーラスはそのまま踏襲している。
これはある意味で桑田佳祐の原体験をなぞった選曲だが、最後に出て来る桑田佳祐オリジナルの楽曲まで何の違和感もなくシームレスにつながっているところが如何にも桑田のルーツという感じがする。
そして、僕は桑田よりは少し下だが基本的に同世代であり、桑田のルーツと僕のルーツは見事に重なっている。それはテレビの歌番組の黄金時代に少年期を過ごしたということがあるからであろう。
そもそも、(今回の番組の中でも披露してくれたが)桑田が歌いながら踊るさまはさながらクレイジーキャッツの『スーダラ節』のノリではないか。いろんなものが完全にテレビを通じて身に染みついているのである。
セット・リストは下記の通り:
- 『東京の屋根の下』灰田勝彦
- 『あゝ上野駅』井沢八郎
- 『赤坂の夜は更けて』西田佐知子
- 『有楽町で逢いましょう』フランク永井
- 『ウナ・セラ・ディ東京』ザ・ピーナッツ
- 『東京ドドンパ娘』渡辺マリ
- 『車屋さん』美空ひばり
- 『すみだ川』東海林太郎
- 『たそがれの銀座』黒沢明とロス・プリモス
- 『東京ナイト・クラブ』フランク永井・松尾和子
- 『男はつらいよ』渥美清
- 『新宿の女』藤圭子
- 『新宿そだち』大木英夫・津山洋子
- 『紅とんぼ』ちあきなおみ
- 『北国の春』千昌夫
- 『神田川』かぐや姫
- 『東京砂漠』内山田洋とクール・ファイブ
- 『唐獅子牡丹』高倉健
- 『東京』桑田佳祐
- 『悪戯されて』桑田佳祐 <エンドロール後のボーナストラック>
- 『ヨシ子さん』桑田佳祐 <番組終了後のおまけ、新曲>
僕が生まれる前や物心つく前の曲もあるが知らない曲はなく、ほとんどが最初から最後までちゃんと歌える(と言いたいところだが、ちあきなおみの『紅とんぼ』だけは聞いたことがなかった。でも、これ、びっくりするほど良い歌である)。
このセット・リストをひとつの連続した歴史として読んで行くと、最後の『東京』の完成度の高さに圧倒されてしまう。昭和的なムード、昭和的な楽曲の構成を引きずりながら、その上に桑田ならではの粘りとメリハリを加えたメロディが顕れているからである。
そこにソングライター桑田の凄さを感じ、シンガー桑田の圧倒的な歌唱力に魅了されながら、結局はこういう選曲をして番組にしてしまうプロデューサーとしての桑田(もちろん番組のプロデューサーは別にいるのだろうけれど)のセンスに完全に脱帽してしまった。
ディスクに移して永久保存するつもりである。
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