映画『何者』
【10月27日特記】 映画『何者』を観てきた。
今回は珍しく原作を読んでいる。映画『桐島、部活やめるってよ』を観て朝井リョウに興味を持ったのだが、既に映像で観たものを活字で読む気にならなかったので、直木賞を受賞したこの作品を読んだのだ。
今回の映画化のキャストが発表された時、twitter上ではかなりの好感を以て迎えられていたように思う。
僕もこれは良いキャストだと思った。二階堂ふみの理香は意外だったし、それ以外の人物にしても、小説を読んでいたときと同じイメージかと言えば必ずしもそうではなかった。
にもかかわらず、メインの6人が6人とも「うん、それはアリかも」と頷ける起用だった。そして、現にその6人がいずれもものすごく良いではないか。曖昧さも強がりも全部リアルである。
パンフレットに載っているインタビューを読むと、それぞれの出演者が口々に「難しかった」「分からなかった」などと言っている。逆説的に言うと、そこが良かったのではないだろうか。
自分には完全には分からないのだとしっかり認識しているからこそ今回の演技ができたのではないか、と僕は思う。
そんな中でただひとり、サワ先輩を演じた山田孝之だけは、自分はこういうアプローチをしたと明確に述べている。しかもそれが「主演の佐藤健をコピーする」ことだったと言う。この辺りが山田孝之の面白さである。
一方、撮影監督の相馬大輔がこんなことを言っている。
キャストは6人全員が役者としての「運動神経」がものすごい。監督の演出に対して、ミリ単位で芝居を変えてくる。そこを監督も楽しんでいたのではないでしょうか。
それは実際の映像からもパンフのインタビューからも窺い知ることができる。ともかく6人が6人とも物語のテーマと自分の役柄をものすごく良く理解しているので驚くのである。
話は変わるが、僕は相馬大輔が撮った映画をすでに13本観ている。パンフレットを読むと、今回の映画では前半と後半でレンズを変えており、また回想部分ではまた別のレンズを使っているとのことで、何を意図してそんなことをしたのかということまでパンフレットに書いてある。
僕なんぞにはそんなことを見破る眼力はない。カメラについて言えばせいぜいカット割りが細かいか長回しか、引いた画が多いか寄った構図を多用するか、動きの大きいカメラワークか固定でじっくり撮っているか、ぐらいのことしか気がつかない。だから、こういう文章を読むと大変興味深いのである。
話が逸れてしまった。
三浦大輔監督については『ボーイズ・オン・ザ・ラン』と『愛の渦』を観た。前者はものすごく良かったが、後者は僕にはどうしても許せない部分があった。
この映画の場合はそもそも原作小説自体が登場人物を非常によく描けているし、就活に twitter を絡めた展開も巧みで、それに加えて佐藤健、菅田将暉、有村架純、二階堂ふみ、岡田将生、山田孝之の6人が6人とも嵌り役で、しかも6人とも見事な演技を披露しているので、映画が悪かろうはずがない。
『愛の渦』はかなり演劇的な色合いの映画になってしまっていたが、今回はあまりそういう部分はないな、と思って見ていたら、終盤に突然演劇的な手法が出てきた。
僕は演劇的な映画は嫌いだ。演劇と関係のない監督が映画に演劇の要素を取り入れるのなら良いが、自分の劇団を持っている演出家や座付作者が映画に演劇的な手法を持ち込むのを見ると、そんなことは舞台でやれよ、と腹が立ってくる。
ただ、今回については嵌め込んで意味のあるものになっており、これはこれでアイデアかな、と思った。
これから観る人は原作を読んでからのほうが面白いかもしれない。もちろん、読んでいなくても、観れば多くのことを感じさせてくれる作品だと思う。
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