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Wednesday, October 19, 2016

『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美(書評)

【10月19日特記】 久しぶりに川上弘美の本を読んだ。「著者初の SF小説」という触れ込みに惹かれたのだ。しかし、手に取って読み始めてみると、ここには我々が従来から知っている「SF」の風合いはない。

なんだか分からないが、どちらかと言えば「ファンタジー」ではないか、という気がする。

それはこの小説が、一体どの時代の話で、登場しているのは一体どんな生物で、長い人類の歴史の中でこの物語がどういう位置付けでどんな意味を持たされているかを全く説明せずにいきなり物語が始まるからである。

で、その物語が続くのかと思えば、章が変わると登場人物もストーリーも全く違うものになる。どちらの物語のほうが先なのか、時間的な繋がりもわからない。いや、そもそもそれぞれの話に繋がりなんかないのかもしれないという気もしてくる。

これは単なる連作短編なのか?

でも、そういう書き出しはひとえに我々の固定観念を流し去るための仕掛けであったことが、読み進むうちに分かってくる。登場人物は人物、つまり人間であり、つまり我々と同じように人間らしく動くはずだと考えるのは読者の凝り固まった認識にすぎない。

そうでないとしたら何故そうでないのかがこの小説のキーになる。

設定上の種明かしが中盤以降で小出しに進んでいくと、漸く物語の柔らかい外皮が剥がれて SF の骨格が見えてくる。科学を論理的に積み上げた構成ではないが、科学と人間を扱った、どのぐらい遠いのか分からない未来のフィクションであることは間違いない。

あ、そうか、これは『神様2011』に近い構造物なのだと分かってハッとする。そこには文明や進化や信仰や生殖など、ものすごくたくさんの事柄に対する「比喩」、と言うより「含意」がある。

Amazon の紹介文には「川上弘美の『新しい神話』」とある。言い得て妙である。

人間から見て、神は怖くて優しい。そういう SF である。

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