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Sunday, September 18, 2016

映画『オーバー・フェンス』

【9月18日特記】 映画『オーバー・フェンス』を観てきた。山下敦弘監督。

知らなかったのだが、それぞれ熊切和嘉監督、呉美保監督で映画化された『海炭市叙景』、『そこのみにて光輝く』と並ぶ佐藤泰志原作だそうで、この映画を含めて撮影は全て近藤龍人である。

これは偶然ではなく、言わば近藤三部作の〆として、近藤とは学生時代からのつきあいで、熊切・呉両監督を含めて同じ大阪芸大出身の山下監督が指名されたとのことである。

そんな背景も、設定やストーリーも、出演者さえよく知らすに、ただ山下監督というだけで観に行った。

最初のシーンがどこの場所なのか俄に分からない。喫煙室で煙草を吸っているのは揃いの作業服の男たち。

初めは刑務所かと思ったが、「こないだナンパした」などと言っているから刑務所ではない。

でも、彼らが木工作業を教わっているところとか、ソフトボールをさせられているところなどが、刑務所かと紛うほど微妙に沈んで淀んでいる。

漸く建物の入口看板が映って、それが函館の職業技術訓練所だと判る。それはつまり、この男たちが基本的に全員失業者であるということでもある。

そうか、この重い空気はそうだったのだ。

男たちは必ずしも気乗りしないまま、大工の技術を習得すべく訓練を受けているのだ。

壊れかけた人間が大勢でてくる。そのひとりが白岩(オダギリジョー)。

一癖も二癖もある連中の中で、白岩は穏やかな大人に見えるが、外に対して心を閉ざしており、飲みに誘われても却々応じない。

毎日弁当や惣菜と缶ビール 2本を買って帰って家で飲む。休みの日には鑿を研いだりして過ごしている。

以前は東京で働いていたが、会社を辞めて函館に戻ってきた。離婚し、子供も取られた辺りにいろいろいきさつがありそうだが、つぶさには語られない。ただ、彼にとってそのことがトラウマになっているのは確か。

その白岩が同僚の代島(松田翔太)に連れられて行ったキャバクラで聡(女性の名前だがサトシと読む、蒼井優)と会う。夜はキャバクラに勤め、昼は動物園でバイトをしている。

聡のことを代島は「ヤれる女」だと言うけれど、どうも代島の元カノっぽくてヤな感じである。でも、結局二人は互いに反発しながら惹かれ合う。

聡は道の真ん中で狂ったように鳥の求愛ダンスをして見せるような女だ。独特の感性を持ち、思い込みが強く、人一倍傷つきやすく、しかも激情型である。

如何にも蒼井優が演じそうな女だ。

僕は、男でも女でも、変人は嫌いではないが、ただ、こういう面倒くさい女とは恋に堕ちたりしない。

だから、白岩の心の動きに今イチ共感が得られない(笑) しかも、白岩の心の痛みの理由はいつまでも詳細には語られない。

そういうこともあって、見ていて少し飽き、少しイライラしたのも事実。

でも、最後まで観ると、やっぱり巧いんだよなあ、山下敦弘監督・近藤龍人撮影・高田亮脚本のトリオは。『そこのみにて光輝く』も高田亮の脚本だった。

今回の映像表現の中でとても重要な要素になつている、聡が鳥マニアで、それでいろんな鳥の真似をするという設定は、原作にはなかったのだそうだ。

結局のところ白岩の沈鬱も、聡の激痛も、その理由は明確には語られないのだ。でも、なんとなく感じられる所まで描き詰めてくる。

脇役の置き方も非常に巧い。

同じ訓練所で反目する大卒(実は中退)の森(満島真之介)と島田(松澤匠)。気の良い青年のようで、実は人に言えない過去がある原(北村有起哉)。年金生活に入っているのに趣味で訓練所に通っている勝間田(鈴木常吉)。

特にこの、元セメントミキサーズの鈴木が実に良い味を出している。

冒頭のシーンでは、喫煙所にいる彼らが誰が誰なのかという感じだったのが、終盤の喫煙所のシーンでは全員のキャラがしっかり立っている印象に変わっていたのは、まさに描き方の上手さによるものである。

主演の二人も、いつもの感じだが、確かに巧い。白岩に対して聡が「そんな目で見ないで」と怒るシーンでは、オダギリジョーの目が本当にそんな目になっていて、ドキッとする。

オダギリ自身もそんなことを言われ続けてきたと言う。僕も同じようなことを時々言われるので、ああ、自分もあんな目になっているのか、と思う。ただ、僕にはそれをカメラの前で再現するなんてとてもじゃないができない。

そんな暗い設定、重い描写を重ねながら、最後には、明確には何も言わないのだか、そこには仄かな救いがある。それがこの映画の、山下監督の技である。

川本三郎がパンフに書いている。「青春映画は数多い。本作は、珍しく青春を終えた人間を描いた秀作である」と。

良い映画だった。ただ、羽根のシーンはやりすぎと言うか、唐突だと思った。もっと枚数が少なくて良かったのではないか(笑)

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