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Monday, September 19, 2016

映画『怒り』

【9月19日特記】 映画『怒り』を観てきた。吉田修一原作、李相日監督。

べらぼうな映画であることは確かだ。2時間22分の長尺に、並行して走る3つの筋。とてつもない豪華キャストだし、東京のゲイの溜まり場も、千葉の漁港も、沖縄の無人島も、圧倒的な映像で迫ってくる。

ただ、見終わった直後の感想としては少し釈然としない感じがあった。

3つのストーリーが映画の終盤に至るまで却々繋がらない、いやすれ違いさえしないのである。複数のストーリーを内包する映画は他にもある。一般的にはその複数の筋はどこかで1本にまとまってくると考えるのが人情ではないか?

いや、ネタバレになるのでこれ以上書くのはよそう。

八王子で起きた一家惨殺事件。その犯人は逃亡中で、有力な証拠さえ見つかっていない。

その犯人かもしれないと思える人物が3人出てくる。

東京で住むところも職もなく、友だちの家を転々として暮らしているゲイの直人(綾野剛)。千葉の漁港にどこからかやってきて、漁協でバイトをしながら暮らす無口な暗い男・田代(松山ケンイチ)。そして、沖縄の無人島に突然現れたバックパッカーの田中(森山未來)。

3つの土地で3人の男を取り巻く物語が3つ展開する。

直人と出会い、やがて自分の家に住まわせてやる、同じくゲイのエリート・サラリーマン・藤田優馬(妻夫木聡)と、末期がんでホスピスにいる優馬の母(原日出子)の話。

千葉の漁港で働いており、そこで田代を雇った洋平(渡辺謙)と、家出して歌舞伎町の性風俗で働いていたが洋平に連れ戻され、やがて田代と恋に落ちる娘の愛子(宮﨑あおい)と、愛子のいとこで一家の母親役みたいな明日香(池脇千鶴)の顛末。(宮崎あおい)

そして、沖縄の離島で暮らす2人の高校生・辰哉(佐久本宝)と小宮山泉(広瀬すず)の前に突然現れて2人に慕われる変わり者の田中の、ものすごく起伏のあるストーリー(ちなみに、泉は母親が男と揉めごとを起こし、逃げるようにここに移り住んだばかりである)。

それぞれの物語に痛みがある。孤独がある。そして、ぶっきらぼうでもそれらを暖かく包もうとする思いやりが見える。3つの違う話にそれぞれそういう仕込みがきっちりできているところがすごい脚本だと思う。

そして、よくもまあこれだけ華のある俳優、うまい役者を集めたものだと思う。上記以外にも高畑充希、ピエール瀧、三浦貴大らが出ている。3つのストーリーのそれぞれに圧巻のシーンが何箇所もある。

そして、直人・田代・田中の3人の男がそれぞれ怪しいのである。誰が犯人でもおかしくない。そして、犯人のモンタージュ写真に3人とも微妙に似ている。いつかどこかでこの3人の話が繋がるはずである──と思って僕は観ていた。

パンフを読むと、原作の吉田修一はこの小説を執筆しているときに、終盤まで誰が真犯人なのか決めていなかったのだと言う。

そうか、それが僕の釈然としない感じだったのだ。

このドラマは確かに人物がよく描かれている。そして、その人物をめぐる3つのストーリーを通して、「人を信じるとはどういうことなのか」を読者に問うているようにも読める。

しかし、その一方で、作家のほうは「読者を裏切るにはどうすれば良いか」を考えることに汲々としていた、とまでは言わないが、群像劇を描いているどこか底のほうで、読者を欺くためのテクニカルな側面を考えていたのではないだろうか?

あまりに見事な構成に、僕は逆にそんなことを感じてしまった。少しあざといのである。

しかし、冒頭で書いたように、それは見終わった直後の感慨である。時間が経てば経つほど、頭の中でいろんなシーンが甦ってきて、いろんな思念が呼び覚まされる。役者の演技を含めて、それほど強烈な映像作品であったということだ。

時々書いているように、終わってからものを考えさせる映画は良い映画である。

一緒に見に行った妻は、本当は彼はこれこれだったのではないか、ひょっとしたらあの時彼はこうだったのかもしれない、あの後実は彼はこんなことをしたとも考えられる、などと、いつも通り奇想天外な解釈を山ほど示してくれた。

それほど強い余韻の残る作品だった。秀作であることは間違いない。

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