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Thursday, August 11, 2016

映画『トランボ』

【8月11日特記】 映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』を観てきた。予告編や記事さえ見た記憶が全くないのだが、僕の周りに絶賛してる人が2人いたので。──なるほど良い映画だった。

僕は「事実に基づいた映画」という売り文句に反発することはあっても惹かれることは全くないのだが、さりとて事実に基づいた映画作りを否定しているわけではないし、そういう映画を見ることを自らに禁じているわけでもない。

ハリウッドでレッド・パージがあったことは知っているが、具体的には何も知らなかった。そういう意味でこの映画はまず新奇な情報であり、そして、レッテルを貼って激しく排斥するという風潮が今の日本とどこか似通ったところがあることもあり、いろいろとものを考えさせてくれる契機になった。

そういう風にものを考えさせる映画は良い映画である。

ダルトン・トランボ(ブライアン・クランストン)はハリウッドの売れっ子脚本家だったが、映画製作の下請け労働者の待遇改善のためなどの運動をしていたのが当局の目に留まり、下院非米活動委員会の赤狩りの餌食となった。

確かにトランボは元共産党員であるが、国家の転覆を企てたわけではない。なのに彼は議会に召喚され、そこで反抗的な態度を取ったために投獄され、のみならず刑期を終えてからもハリウッドでは村八分に遭って全く仕事が回って来なかった。

ここまで陰湿で狂信的な行動というのは、僕は日本人の専売特許だと思っていたのだが、自由主義を最も重んずるアメリカ人たちがこんな妄動にこぞって加担してたとは知らなかった。少なからずショックを受けた。

しかし、トランボは全く懲りない男で、偽名で安い脚本を書いて食いつなぎ、あまりに数が増えて手に負えなくなると、ハリウッド・テンと言われた同じ境遇の仲間たちにも仕事も回してやった。

そうこうするうちに、彼が親友のイアン・マクラレン・ハンター(アラン・テュディック)の名を借りて書いた『ローマの休日』がアカデミー賞を獲ってしまう。さらにその3年後には別名義で書いた『黒い牡牛』が再度アカデミー賞を受賞する。

そして、さらにその4年後、『栄光への脱出』と『スパルタカス』で漸く本人名義での復活を果たす。──そんな話だ。

ともかくトランボや仲間たちは徹底的に締めあげられる。

その締めあげる側として大御所ジョン・ウェイン(デヴィッド・ジェームズ・エリオット)や元女優でコラムニストのヘッダ・ホッパー(ヘレン・ミレン)、そしてトランボや仲間たちを当局に売った人物として、これまた往年の名優エドワード・G・ロビンソン(マイケル・スタールバーグ)などが実名で出てくるので驚く。

これが日本なら、たとえ誰のことかはバレバレであっても、まず偽名にするところだろう。これがアメリカだなあという気がする。

一方、トランボの復活に力を貸すのがカーク・ダグラス(ディーン・オゴーマン)と映画監督のオットー・プレミンジャー(クリスチャン・ベルケル)で、こちらもまた実名での登場である。

そして、トランボらを偽名で雇う三流映画会社の社長が出てくるのだが、これが義憤にかられて、とか、トランボを不憫に思って、とかではなく、単に金儲けのためにやったというところが、これまたアメリカらしい。

そして、この社長に圧力をかけに来た当局の人間を、彼が野球のバットを振り回して追い払うところが、これまたアメリカ的で胸のすくシーンである。

ともかくアメリカ的に良く書けた脚本なのである(笑) プレミンジャー監督のドイツ訛りの英語やドイツ人気質の発想などコメディ的要素も多分にあるし、苦難に耐えて甦るヒーロー物の要素もある(ホッパー女子が本当に憎たらしい)。そして、何よりもホーム・ドラマである。

トランボは決して鉄の意志を持つ英雄として描かれてはいない。仲間たちからは胡散臭く思われたりもしているし、あまりに専制的に家族に接し、家族に当たり散らしたために家庭崩壊寸前まで行くところが描かれている。

そういうシチュエーションでとりわけ良い芝居を見せているのが、トランボの妻を演じたダイアン・レインと、長女を演じたエル・ファニングである。映画館で映画を観ているシーンなどで、トランボ自身が割と無表情な場面で、その隣の妻がなんとも言えず微妙に良い表情を見せているシーンがある。

結局、この妻と娘によってトランボは救われるわけだが、そういう家族主義に帰結するのはこれまたハリウッドの定番である。

プロデューサーで脚本を書いたジョン・マクナマラは、上述の『ローマの休日』の名義上の脚本家であるイアン・マクラレン・ハンターに師事していたのだそうで、そこでハンターから事実を聞き、この脚本を書くに至ったと言う。

結局のところ、アメリカって良い国だなあ、というのが僕の感想である。結局そういうところに落とし込むのが、いつものハリウッドの手練手管ではあるのだが(笑)

こういう素晴らしい脚本を書く人材がヒステリックにパージされてしまうような時代が二度と来ないように、僕らもしっかりしなければならない。

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