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Saturday, August 27, 2016

映画『青空エール』

【8月27日特記】 映画『青空エール』を観てきた。大ベストセラーの少女漫画が原作。僕が大好きな三木孝浩監督。押しも押されもせぬ青春恋愛モノの名手である。そう、「巨匠」や「鬼才」ではなく「名手」という表現がぴったりだと思う。

観客は女子中高生が大半。その JC、JK に混じってたまに JD、そして OL、若いカップルがパラパラ。そんな中におっさんが一人だけ挟まっている居心地の悪さはいつものとおりである(笑)

主人公は小野つばさ(土屋太鳳)と山田大介(竹内涼真)。北海道の白翔(しらと)高校の1年生。つばさは吹奏楽部、大介は野球部。ともに毎年全国大会を目指している道内屈指の名門である。

ただ、大介のほうは中学時代から名の売れた選手で、引手数多の中、先輩の碓井(山田裕貴)に請われて白翔に入ったのに対し、つばさは全くの未経験者で、甲子園での応援風景を見て、それに憧れて吹奏楽部に入部する。

この2人が恋に落ちるわけだが、この話は2人の向き合いよりもむしろ、それぞれの野球と吹奏楽への取り組みをメインで描いて行く。

監督も言っているが、「ラブストーリーではあるけれど(中略)お互いがお互いの背中を見て力を与え合う関係性が描かれて」いる。

確かにこの映画で何箇所かある、2人のうちのひとりが自転車で、もうひとりが並行して走るシーンが美しい。前と後ろが入れ替わり、前にいるほうが振り返り振り返りする。大介のほうが自転車を漕いでいるつばさよりも速く走っていたりするのも微笑ましい。

そう、そういうコントラストは数多くあって、まずこのカップルにはかなりの身長差がある。2人のシーンではカメラは当然のようにつばさは上から、大介は下から画面に収めており、それがすなわち相手の目線なので、観客にまでドキドキ感が伝わってくる。

握手するシーンでは手の部分を真横からアップで撮っており、自ずから手の大きさの違いが際立つ。観客席から「あんなに大きさ違う!」という呟きが聞き取れたほどだ。

そういう風に書くと、この映画は大きくて強い男と小さくて守ってあげたい女というステレオタイプの男女観を描いているように思われるかもしれないが、実はそうではない。

どんな苦難にあっても決して折れないのはつばさのほうで、大介はその姿に勇気づけられるのである。

大介たちが用具の手入れをしていると背景に映っている校舎から吹奏楽部の練習が聞こえてくる。捕手の大介はバッテリーを組む城戸(堀井新太)に、「あれはひょっとしたらつばさが吹いているのかもしれない」と言う。城戸は「ああ、あの中で一番下手くそな音が彼女だ」と茶化すが、大介は「でも、俺はその音に励まされる」みたいなことを言う──あれはとても良いシーンだった。

でも、つばさも決して屈強な精神力の持ち主ではない。映画の冒頭に映るのは、ちょっと内股気味なつばさの靴の爪先の、真上からのカットである。つばさは人から何か言われるといつも俯いて自分の靴を見ていたと言う。

そもそも触ったこともなかったトランペットを高校に入ってからやり始めたのである。周りは推薦で入って来たような上手い部員ばかりの中、当然いろんな嫌なことを言われて挫けそうになる。

そのつばさの靴に悪戯書きをして彼女を勇気づけたのは大介だった。

そういうとても良い話なのである。そういう良い話を子供騙しと言う人もいるのかもしれないが、僕はこれが子供騙しであるなら、映画館に来ているたくさんの子供たちがこれに騙されてくれたら良いと思う。

大人が子供騙しと嗤う純粋さは、実は誰でも若いころに持っていた感覚なのであって、それは大人になってからも人生を駆け抜けて行くためのエネルギーになるのである。

『下町ロケット』の竹内涼真と『表参道高校合唱部』の堀井新太らが本当にキラキラした高校生を演じていて好感が持てた。そして、部活の顧問であり指揮者である杉村先生を演じた上野樹里が圧巻の演技だった。

所謂鬼コーチ的な役回りで、ほとんど微笑むシーンさえないのだが、非人間的な鬼に堕ちることなく、硬い表情の中に時折ちらっと優しさを見せるという、誰にでもできるわけではない非常に難度の高い芝居を見せてくれて堪能した。

日本では(日本だけではないのかもしれないが)青春映画はとかく軽く見られてしまうが、大人たちにも是非観てほしい映画である。あなたたちの心のなかにもきっとこういう部分は残っているはずだから。

ただ、9回の裏1点負けていて、ノーアウト1塁という場面では、とりわけ高校野球においては、誰が考えてもバントなんですけどね(笑)

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