映画『海よりもまだ深く』
【5月28日特記】 映画『海よりもまだ深く』を観てきた。
僕は監督によって映画の出演者が固定化するのを好まない。
森田芳光の映画には、いつも端役だけれど伊藤克信が出ている、というような遊び心は大好きなのだが、中心人物が全員おなじみのメンバーで固められていたりするとげっそりするのである。
橋田壽賀子や山田洋次じゃあるまいし、という感じ。
そういう意味では、是枝裕和監督作品 5本目の樹木希林、4本目の阿部寛、3本目のリリー・フランキー、2本目の真木よう子というこのキャストはどうだろうと思ってしまう。
特に阿部と樹木の母子という組合せはどうしても『歩いても 歩いても』を思い出してしまう。そういうことがこの映画の新鮮さを削いでいないかと心配するのである。
僕が今回この映画を観て、いつもの是枝監督のような切れがないと感じてしまったのにはそういう要素もあったと思う。
それと、もうひとつは予告編である。
この映画はストーリー的な“うねり”が少ない、会話劇と言っても良い作品で、シーンごとに良い台詞、響く会話で見せて行く様相が強い。
なのに、その多くを既に予告編で見聞きしてしまっているのである。
会話劇であるだけに、ああいう風に切り出して予告編を作るしかなかったのかも知れないが、何タイプかの予告編を何度も見せられた身にとっては、本編を観る際に逆にマイナス要素になってしまう。
僕と違って滅多に映画館に足を運ばない人には、もっと感動してもらえたのかもしれないが。
ただ、役者たちはそれぞれにめちゃくちゃ上手い。
阿部寛の根はぐうたらだけれど人なつっこくて妙にマメな主人公、樹木の気丈なくせに淋しがり屋の母、真木よう子のしたたかに見えて繊細な元妻。
そしてそこに、小林聡美、池松壮亮、吉澤太陽の是枝映画初出演組が、それぞれ現実的で辛辣な姉、ちゃっかりして実は優しい同僚、気弱だけれど皆の長所をちゃんと見抜いている息子の役を見事に演じている。
もう少し脇の中村ゆりや高橋和也、ミッキー・カーチス、古舘寛治あたりもとても良い味を出している。
主人公の良多(阿部寛)は元々は作家で島尾敏雄賞を獲ったぐらいだったが、結局作家では食えず今は興信所で探偵をやっている。問題は探偵をやっていることではなく、すっかりやさぐれてしまっているところである。
文筆で食えないのを時代のせいにしてすねてしまっている。常に金に困ってギャンブルと危ない“裏稼業”に明け暮れている。
小学生のひとり息子と月一回会うのだけが楽しみだが、別れた妻との約束を守れず、養育費も滞納している。おまけに元妻への未練も未だに全く断ち切れない。ところが、その元妻は最近男と付き合い始めている。
とんでもない行動に出る彼をめぐって、周りのいろんな人がそれぞれ各人各様にいろんなことを言い、いろんな態度をとる。そのやり取りが面白い。
いつものように監督本人による脚本は、いつも通りのものすごく自然で極めてリアルな台詞回しである。
だから、物足りないかと思った割には、読後感はすこぶる良い。
妻の元に残してきた小学生の息子を、公務員志望で野球の時にはフォアボールを狙っているようなキャラに描いていながら、それは観客の笑いを取るためでもなんでもなく、ひたすら主人公の息子に対する愛情を描くための材料になっているようなところがこの映画の魅力である。
小澤征悦が演じた元妻の彼氏の描かれ方が、阿部寛が演じた主人公と対照的であるところが非常に面白かった。貶し気味に書き始めながら最後にこんな風にまとめるのもアレだが、まあ、良い映画であることは間違いない(笑)
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