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Sunday, April 24, 2016

映画『アイ アム ア ヒーロー』

【4月24日特記】 映画『アイ アム ア ヒーロー』を観てきた。佐藤信介監督。

出だしは主人公のダメ男・鈴木英雄(大泉洋)の日常を描いている。

職業は漫画家。雑誌の新人賞で佳作こそもらったものの、その後の15年間はずっとアシスタントで食いつないでいる。自分の作品はついぞ出版されたことがない。

同棲している“てっこ”こと徹子(片瀬那奈)にも愛想を尽かされ、アパートから追い出される。夢と心意気だけは大きいが、内実がついて行かない。名前だけは英雄だがヒーローにはほど遠い男。

そんなやるせないドラマだったものが、てっこが突然ゾンビに変身して一気に物語のトーンが変わる。それまでテレビのニュース番組などで各地で異変が起こっていることは匂わせていたが、一気呵成、怒涛の急展開である。

で、また、これが思いっきり怖い。かなり度肝を抜かれる。強烈な特殊メイクと CG と特撮。スプラッタなんて分類をすれば済むものではない。特に後半の戦闘シーンでの肉や骨の潰れ方はえげつない。

ZQN(ゾキュン)と言われるゾンビが何故、どういう経緯で、どういう経過を辿って大量発生したのかほとんど説明がない。しかし、それは映画の進め方として失敗になっていない。

逆にそのことによって、何だか解らないけれどとにかく逃げなければ死ぬという切迫感がよく出ているのである。

最初の街中がパニックになるシーンがものすごい。

狼狽えて息を切らせて走り、止まり、急に曲がり、こけてまた走る英雄をカメラはワンカットで追うのだが、広い画面の奥のほうのあちこちでゾンビが人に噛みつき、車が激突し、まだゾンビになっていない人間たちが四方八方に逃げまどう。

しかし、人間がゾンビに襲われる画面にビクンッとしている僕の隣や後ろの客席から笑い声が漏れるのである。おいおい、ここでよく笑えるなあ、と思う。が、確かに随所に笑いは仕込んである。後半は気がついたら僕も笑っていた。

英雄のダメさ加減が良い。趣味でクレー射撃をやっている関係で銃を持っており、ちゃんとそれを使えるのだが、生きるか死ぬかの非常時になっても銃刀法にこだわって銃を構えることもせず、いざという時にも人を撃ったことがないので撃てない。

言うなればこの映画は鈴木英雄が鈴木ヒーローになる成長物語なのである。原作の花沢健吾という漫画家は、名前は知っているが読んだことはない。でも、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の作者だと知って納得した。

この人は「男の子」を描いているのだ。『男はつらいよ』の寅さんのような中年男の哀愁ではない。「男の子だろ? しっかりしなさい」と言われて一瞬ちょっとキリッとするような(でも、そんなに急に強くはなれない)まさに男の子を描いているのだ。

そういう英雄の複雑な内面を表現するには、大泉洋というのはうってつけのキャスティングだったと思う。

英雄は逃げる途中で女子高生・比呂美(有村架純)を助ける。そして、日本映画ではめったに見ないほどの派手なカー・アクションの後、ソーシャル・ネットワークで見た「高いところではウィルスは死ぬ。富士山を目指せ」の情報を信じて山に入って行く。

ところが、寺の境内で一夜を過ごした翌朝、英雄は比呂美の首筋に小さな噛まれた跡があるのを見つけてしまう。この辺りも怖い。しかし、この後、比呂美は映画を観ている客に対してあまり状況を説明されず、宙ぶらりんな存在のままストーリーは展開する。

辿り着いた富士裾野のアウトレット・モールで、2人は避難していた一団(とそれを取り囲むゾンビの群れ)と出会うのだが、そこからあたかもヒロイン役が交代したかのように、元看護師の通称「藪」(長澤まさみ)が前面に出てくる。

長澤まさみの凛々しい奮闘ぶりに、有村架純が(役柄のせいもあるけど)やや霞んで見える。後から知ったのだが、この映画を撮ったのは『ストロボ・エッジ』よりも前だったと言うから、その当時の有村と長澤の間にはこれほどの存在感の差があったのかもしれない。

『図書館戦争』の2本の映画や、今 TBS で放送中の『重版出来』を手がけている野木亜紀子の脚本がよく書けている。恐怖感の中でも人はこんなことやっちゃうよねという笑いが潜んでいる。

元ニートのサンゴを演じた岡田義徳が、いつものようななよっとした感じではなく、キレキレの役柄で、これはまさに怪演と言っても良いのではないか。

R15+ になるのも仕方がないくらい激しくグロい映画であるが、人の心は巧みに描かれている。特に、ロッカーに潜んだ英雄が自分が襲われるところを想像してしまうシーンは秀逸である。

で、おいおい、こんなとこで終わっちゃうのかよ、という終わり方である。

元々ずっと連載の続いている長い話らしく、そうでなくてもこんな話を2時間で完結させるのは無理である。そこを無理せずぶった切った感じなのだが、なんだかこういう終わり方も悪くないな、と感じさせる終わり方なのである。

続編作ってほしいな。英雄と藪と比呂美はこの先どうなっちゃうのよ? 本物のヒーローに少し近づいた英雄の行く末を見届けたい気になるのである。

それは僕らもこの映画を見ながら、ある時は怖がりある時は笑い、そんなことをしているうちに知らぬ間に英雄から幾許かの勇気を受け取ったからなのだろうと思う。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

ラムの大通り

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