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Tuesday, April 26, 2016

映画『蜜のあわれ』

【4月26日特記】 映画『蜜のあわれ』を観てきた。石井岳龍監督。原作は読んでいないが、室生犀星の小説であることぐらいは知っている。

主人公は犀星自身と思われる作家(大杉漣)。その家にひらひらした赤い服を着た少女(二階堂ふみ)がいるのだが、これが金魚の変身だと言うから驚きだ。その金魚が老作家を「おじさま」と呼び、思わせぶりな仕種をする。

他にも、以前作家に自分の作品を見てもらったことがある女の幽霊(真木よう子)や、とっくに死んでいるはずの芥川龍之介(高良健吾)なども登場する。ある種、怪異譚めいたしつらえになっているのだ。

少女が「てよだわ」言葉を喋り、作家が口絵を描いたギャラが2,000円で、街には Coca-cola の英語ロゴの看板があり、話にブリジッド・バルドーが出てくる。

いつの時代なのかうまく読み取れなかったのだが、調べてみるとこの小説は1959年に出版されている。犀星70歳の時の作品で、その3年後に彼は亡くなっている。

自分自身の老境を描いた作品と捉えて良いのだろうが、しかし主演の大杉漣は実年齢64歳と、現代社会ではまだそれほどの老人ではない。髪も黒々として顔に皺も少なく、まだエネルギーに満ち、「老いさらばえた」という感じがない。

どうせなら髪も真っ白で顔も老けてしまった近藤正臣あたりの配役でも良かったのではないか(もっとも晩年の犀星もそれほど白髪ではないが)とも思うのだが、そうすると枯れすぎていて下世話な感じが出ない。

いつまでも少年のような純真さと老いてなお肉欲の衰えないところの両方を見せるには、やはり大杉だったのかもしれない。

ただ、二階堂の歯切れの良い喋りと並べて聞くと、如何にも大杉の滑舌の悪いのが気になった。まあ、それが老境なのかもしれないが(笑)

作家には今も通っている女(韓英恵)がおり、彼が渡り歩いてきた大勢の女たちの中に金魚や亡霊が混じるという突飛な話だが、この突飛な構成をさらに崩してくるかと思われた石井岳龍が、極めてオーソドックスに映画化しているのに驚いた。

あまり読んではいないのだが、室生犀星の文体が映像の中に活きているように感じた。

ただ、映画の中でもとりわけ美しいシーンである3度のダンス(二階堂単独、二階堂と真木、二階堂と大杉)には石井岳龍のカラーがしっかり感じられた。

こういうエロティックな幻想を映画にして何になる?と言われればそれまでなのだが、そこをするりと超えて行くような、今どき珍しい「文芸作品」であった。

二階堂のまとう服の赤い色と襞模様、彼女の裸体の線の丸さ、ある時はカメラを切り替え切り替え、ある時は長く回し、ある時は周りをぐるぐる回って役者を捉える画変わりの面白さ。──映像としては堪能させてもらった。撮影は笠松則通。

芥川の高良健吾と金魚屋の永瀬正敏がとても良い味を出している。

ただ、この時代の女性の化粧としては、二階堂ふみも真木よう子もあまりに睫毛が長すぎる。そのことだけが少し気になった。

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