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Saturday, April 02, 2016

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』

【4月1日特記】 2月に NHK Eテレで『岩井俊二の MOVIEラボ シーズン2』を観た。こんな番組をやっていたことを知らなかったので、僕はこのシーズン2が初めてだった。

1時間×4回のシリーズで岩井俊二をメインに据え、進行役が千原ジュニアと飯豊まりえ(*)、前半2回のゲストが堤幸彦監督とアクション監督の諸鍛冶裕太、後半2回のゲストが是枝裕和監督と長澤まさみだった。そして、スタジオには映画制作を志す若者たちが招かれていた。

( * アシスタントだった彼女の名前まで書いているのは、今年か来年に必ず大ブレイクする存在だと僕が確信しているから)

構成としては、1)洋画/邦画の歴史的名作、2)岩井監督の過去作、3)ゲストの過去作、そして、4)スタジオに来ている若者たちにテーマを与えて作らせた1分動画を取り上げて語るというもの。

作者が自作を語るというのは往々にして無粋な蛇足の感があるのだが、この番組には全然そういう臭みがなく、素直に「ああ、監督はそんなことを意図してこの画を撮っていたのか」「このシーン/カットからはそういう情報を読み取るべきだったのか」と大変興味が湧き、勉強になった。

そんなわけで『花とアリス』以来長らく観ていなかった岩井作品を久しぶりに観たくなった。観てみるとやっぱりこの監督の肌理の細かさを感じる。

まず冒頭の七海(黒木華)と鉄也(地曵豪)の初めての待ち合わせのシーン。どこがどうなのか分からないが、不思議なくらい透明感がある。都会の人混みでの待ち合わせ。近くまで来ているのに相手が見つからず、スマホでやり取りするという現代的な設定である。

「手を挙げてみてください」と言われて挙げてみるが見つけてもらえず、どこにいるのかと思えば背後から呼ばれる。とても綺麗なシーンなのだが、あとから振り返れば、これが近いようで遠い人間関係を示唆しているようにも思えてくる。

結婚式のシーンでバッハの『G線上のアリア』が流れてきて、当然この曲はこの場面だけで使われるものだと思っていたら、その後の対照的なシーンでもう一度出てくるところが何とも言えず怖い。

しかも、2回とも同じように七海がこちらに一歩一歩あるいて来る構図だ。最初はウェディング・ドレスを着てヴァージン・ロードを、2度めは自分がどこにいるのかも分からない街を重い荷物を引きずって。

リップ・ヴァン・ウィンクルというのはアメリカ版浦島太郎だ。中学の英語の教科書に載っていた。

映画を見ながら、このタイトルがどこで現れるのかと思っていたのだが、あまりにストレートな想像をしていると裏切られる。そう、岩井俊二はそんな風に僕らを裏切りながら映画を進めて行く。

前半はまるで、「ネットで知り合った人をむやみに信用すると痛い目に遭う」というベタな教訓が込められた話のように見えてしまう。「ネットで知り合った人」というのは具体的には鉄也と安室(綾野剛)である。

七海は LINE でも twitter でもない、この映画で作られた架空のソーシャル・ネットワークを使っている。閉じたメッセンジャー系ではなく、twitter 型のオープンなシステムである。

結婚披露宴の打合せ中に、七海は自分の側の親族の数が少なくて恰好がつかないと鉄也に言われ、そのことをソーシャル・ネットワークでつぶやくのだが、そこに「代理で親族役をやるサービスがあるよ」と横レスしてきたのが安室である。

この2人によって七海は翻弄される──それが前半。鉄也の母親役の原日出子が怖い。

そして後半は当然七海がそこから立ち直る、あるいは真実を暴いて復讐する、といった形になるのだろうと思うのが人情だが、予想に反してストーリーは、まるで紐の切れた風船みたいに、あらぬ方に飛んで行く。

後半七海は、自分の披露宴でも使った家族なりすましのバイトをやり始め、そこで知り合った“女優”の真白(Cocco)と親しくなり、彼女とのある種不思議で幸せな共同生活が描かれる。そして、タイトルの『花嫁』はここで初めて出てくる。

そう、女性同士であり、2人とも同性愛者ではないが、これは紛れもない結婚である。最初は七海が花嫁で、となると真白がリップ・ヴァン・ウィンクルなのかと思ったが、逆なのかもしれない。うん、あの結末を考えると、七海がリップ・ヴァン・ウィンクルであったと考えたほうが意味深長になり、余韻が深い。

気がつくと、前半は夫、夫の両親、自分の両親を含めたリアル家族の話、リアル家族が崩壊する話であり、後半は擬似家族が幸せに結ばれる話になっている。そして、最後には真白の母親(りりィ)が出てきて、再びリアル家族の話に戻る。

いや、崩壊したリアル家族の繰り言を経て、最後には逆に真白の母と安室と七海の3人が、ほんのひと時ではあるが、心通じる擬似家族になる。

この辺のアンバランスでアンビバレントな運びは非常に上手い。この不安定性・両義性の捉え方にとても深い説得力がある。で、なんだかもやっとしたものを余らせたまま映画は終わる。

少し長いけれどとても良い映画だった。岩井俊二はやはり卓越した感覚と能力の持ち主である。『岩井俊二の MOVIEラボ』を観た後だから、余計にそのことを実感する。公開初日なのにパンフレットは売り切れだった。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

ラムの大通り

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