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Friday, April 29, 2016

映画『ちはやふる 下の句』

【4月29日特記】 映画『ちはやふる 下の句』を観てきた。(「上の句」の記事はここここに書いた)

あまり具体的には書くつもりはないけれど、今回は映画の終わり方についていつもより詳しく触れるので、これからご覧になる方はこの文章を先に読まれないほうが良いかもしれない。

上の句は瑞沢高校かるた部が都大会で優勝し、その喜びを報告しようとして電話した千早(広瀬すず)が新(真剣佑)に「もうかるたはやらん」と言われたところで終わる。

下の句はそれを心配した千早が太一(野村周平)と一緒に新の住む福井に向かうところから始まる。果たして、新が心から慕っていた祖父で元かるた名人の始(津嘉山正種)が亡くなっており、それで新の心が折れていたのである。

そこから千早の暴走が始まる。なんとか自分が活躍して新をかるたに引き戻そうという、如何にも千早らしい単純な発想である。この辺は良くキャラが立っている。

そのために千早は個人戦で史上最強クイーンの若宮詩暢(松岡茉優)を倒すことを至上命題とし、そのことしか頭になくなる。詩暢を想定した左利き対策に血道を上げ、仲間を放って単独行動ばかりして、団体戦に向けての準備がおろそかになる。

今回はそんな千早に、周囲のみんなが仲間の大切さを教えるという、文章にするととってもベタなテーマになっているのだが、脚本がよく練れているので観ていてちっとも薄っぺらくも嘘臭くもない。

しっかりと段階を踏んだ構成で、さまざまなエピソードをタイミングよく配することによって、千早や太一、さらにはチームメイトの駒野(森永悠希)、そして新の成長が上手に描かれていた。

上の句に続いて、画作りも素晴らしい。スローモーションも CG も大変美しい。クライマックスのシーンでは、広瀬すずや野村周平がカメラに向けて奇跡的なコースで札を弾いたため、ノー CG のシーンもあるとか。

6日間もかけたという個人戦のかるた取りシーンの所作がびっくりするほど綺麗である。

人物を2人縦に並べて被写界深度の浅いカメラでどちらか一方に焦点を合わせて撮る構図が多用されるのだが、そのクロースアップがとても美しい。今回も千早の耳がアップになるシーンがあって、非常に印象的である。

ただ、今回は勝負のキーポイントがやや精神的な面に寄りかかりすぎ、物理的・論理的なテクニックの要素があまりなかったのは残念である。

詩暢の札の並べ方のパタンや北央高校かるた部秘伝の虎の巻など、そういうパーツも用意されてはいるのだが、話の中で具体的な展開を見せられていなかった。そういう要素があれば、逆にテーマを裏からさらに補強することができたのにと思う。

それと、驚いたのはこの映画の終わり方。これは競技や勝負を扱う映画としては異例である。団体戦も個人戦も、全国大会の最終結果は描かれない。

それは深読みすれば、決して勝ち負けを一番大事なものとしては描かない撮り方ということになるのかもしれないが、通常の感覚としては映画にけりがついていないということになる。

「けりがつく」という表現は、実は和歌から派生したものである。

「けり」は過去/詠嘆を表す助動詞で、例えば小倉百人一首を引き合いに出すなら、「あひみての のちの心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり」のように、「けり」がついたら歌が終結するので、決着がついて終わることをそう言うのである。

前後編に分かれる映画を撮った時に単純に「前編/後編」とするのではなく、ちょっと凝った副題をつける映画は少なくない。僕はこの「上の句/下の句」というネーミングをものすごく巧い表現だと大いに感心した。

それだけに、(上に書いたように)一番大切なのは勝負ではないという意味を込めてこういう終わり方をしたのであれば、僕は素直にその勇気を褒め称えたい。しかし、もしも下の句でもけりをつけずに、続編を作ることを前提としているのであれば、それはあまりスマートでなく、ちょっとがっかりである。

ここはこの余韻をキープして、その後の展開はそれぞれの観客の想像に任すべきところではないかな。ただ、いずれにしてもこの続きを観たいという気持ちも確かにある(笑)

しかし、できることならその気持に付け入らないでほしいものである。

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