『天才スピヴェット』
【3月12日特記】 久しぶりにテレビで観た(厳密に言うと、WOWOW から録画して観た)映画について書く。『天才スピヴェット』、ジャン=ピエール・ジュネ監督、2013年。
日本では翌年のキネマ旬報で第31位という順位だが、めちゃくちゃ面白かった。この監督はやっぱり他の人にはない発想でものを作っている。
調べてみると僕は『デリカテッセン』 『ロスト・チルドレン』 『エイリアン4』 『アメリ』 『ロング・エンゲージメント』 『ミックマック』『天才スピヴェット』と、彼の監督作品(共同を含む)を全て観ている。
モンタナ州の片田舎の牧場で暮らしている10歳の少年スピヴェット(カイル・キャトレット)は発明の天才。彼が考案した永久駆動装置がベアード賞を受けることになり、発明者が少年とは知らないスミソニアン協会から来週のレセプションでスピーチをしてくれという電話がかかって来る。
スピヴェットは最初は学校があるので無理と諦めるが、いろいろあってワシントン行きを決意する。まずは家の近くの線路を通る長距離貨物列車を騙して停車させ、それに飛び乗ってシカゴまで。そして、その後はヒッチハイクでワシントンまで。
アメリカって何と広い国なんだろうと感じさせる、素晴らしい構図と場面転換の連続に驚かされる。
しかし、それ以前に、スピヴェットも含めて彼の家族が全員がしっちゃかめっちゃかなほど個性的であるところに強く惹かれる。
100年遅れて生まれてきたカウボーイとスピヴェットに評される父親。生活態度も興味の対象もカウボーイ以外の何ものでもない。
昆虫学者で、パンを焼けば何故か必ずトースターを壊してしまう母親。芸能人になって都会に出ることに憧れている姉。そして、猟銃の事故で死んでしまったスピヴェットとは二卵性双生児にあたる弟。
弟は幻影となって、時々スピヴェットのもとに現れ、彼を見守っている。しかし、カウボーイの才能があり、父の寵愛を一身に受けていた弟が、自分が一緒にいた時に死んだことについて、スピヴェットは深い自責の念を覚え、トラウマになっている。
この辺の設定をメインのストーリーに絡めていく発想が、とても真似のできない域に達している。
そして、家事にも育児にも全く興味のないように見えた母親や、弟だけを愛していると思っていた父親、さらに、自分のこと以外に興味がなさそうだった姉が、そう、家族全員がスピヴェットに対する愛情を表す。
この手練手管の筋運びがじんわりと僕らの胸を熱くしてしまうのである。
母親になっているヘレナ・ボナム=カーターが特に素晴らしい。この役者やっぱり大好き。
そして、このヘンテコリンなメイン・ストーリーに、くすっとしか笑えない数多くのエピソードを絡めながら、アメリカの物心両面における広さを素晴らしいカットで見せてくれたジャン=ピエール・ジュネ監督に、心から拍手を贈りたくなる。
ハートウォーミングと言うとあまりに月次だが、でも、僕も妻も心がとても温まって、優しい気持ちになれた映画だった。
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