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Sunday, March 20, 2016

映画『ちはやふる 上の句』

【3月20日特記】 映画『ちはやふる 上の句』を観てきた。

実は監督を小泉堯史と勘違いしていた。僕にとって小泉堯史と言えば、映画『博士の愛した数式』で「あの原作をこんな映画にしてしまうか」とげっそりした監督である。

もう二度と観たくないと思っていたのだが、しかし、予告編を見る限り随分面白そうなのである。いや、それ以前に作風が『博士の愛した数式』の時と似ても似つかない。

あれ、おかしいな?と思っていたら、同じ小泉でも小泉徳宏監督だった。すでに何本かの監督作品があるが、僕は観たことがなかった。ROBOT の人──そう、そう言われると如何にも ROBOT らしい作りの映画である。競技の場面などで CG もふんだんに使っているし。

で、見終わってみると、まさに ROBOT らしさが十全に開花した素晴らしい映画だったと言える。原作は大ヒットした少女漫画。主人公・千早(広瀬すず)の高校の競技かるた部を描いたもの。

世に「部活映画」はたくさんある。

僕が観たものでは、『恋は五・七・五』(荻上直子監督、俳句部)、『うた魂』(田中誠監督、合唱部)、『武士道シックスティーン』(古厩智之監督、剣道部)、『くちびるに歌を』(三木孝浩監督、コーラス部)など。

観ていないものでは『書道ガールズ!!』(猪股隆一監督、書道部)なんてのもあったし、テレビ・ドラマでは『表参道高校合唱部』(TBS、2015年)が記憶に新しい。

で、団体戦のある競技では、5人ぐらいのチームで、大体力量の高い主人公がいて、そのライバル的な存在がいて、マドンナ的な存在もいて、さらにおっちょこちょいがいて、ガリ勉かオタクがいるというのが定番であると思う。

この映画の競技かるた部もそれに近い線なのだが、ガリ勉 or オタクをひとりのキャラにはせずに、駒野(森永悠希)というガリ勉をひとり置き、そこにプラスする形で奏(上白石萌音)という女の子のオタクを持って来たのが良かった。

そして、この奏が何のオタクかと言えば、着物オタクで百人一首オタクだという設定が功を奏したと思う。

和歌というのはかなり奥が深いもので、正しく鑑賞するには背景や技巧についての知識を要するのである。それをストーリーの中で違和感なく解説して行く役割を、この奏が果たしている。上白石萌音を見るのは『舞妓はレディ』以来だが、良い役をもらったと思う。

僕は百人一首は割合好きで、数は少ないが何首か暗唱している歌もある。

千早が高校に入学して、幼なじみで一緒にかるたをやっていた太一(野村周平)に再会した時に、「瀬を早み、だね」と言う。この場面ではすぐに解説がないのだが、僕は「なるほど、われても末に逢はんとぞ思う」か、とニンマリしてしまった。同時に崇徳院という詠み人の名も浮かんだ。

タイトルになっている「ちはやぶる」もそうである(「ちはやふる」となっているのは、日本の伝統的仮名遣いには濁点は存在しなかったからである)。

ちなみに「ちはやぶる」が「神」の掛詞であることも知っている。そして、これが在原業平の作品であることも知っているが、しかし、単なる秋の紅葉の美しさを謳った作品だと思っていたので、奏の解説を聞いて、ああ、そうだったのか、と思った。

確かにそういう情熱的な部分がなければ主人公の名前や作品のタイトルにはならないだろう。

そんなことを考えていると、この映画は百人一首も競技かるたもあまり知らない若い子たちが観たら果たして楽しめるのかな、と疑問に思った。だが、逆に言うと、こういう映画こそがそういう子たちを和歌鑑賞の道へと誘(いざな)うのである。そういう意味でとても良い映画であると思う。

映画の序盤では、描かれている人物はいずれもかなりデフォルメされているように見える。まるでマンガである。いや、マンガが原作だから当然か(笑)

かるたのことしか頭にない千早が、入学した高校でかるた部を作ろうとするが人数が足りない。そこで、小学校時代に一緒のチームでかるたをしていた太一が同じ高校にいることを発見し、同じ時代に敵チームにいた「肉まん」こと西田(矢本悠馬)も仲間に引き入れる。

あとは、単に着物と古典が好きなだけの奏と、群れるのが嫌いで部活に入らないまま(校則ではどこかに入部しなければならないのに)放置していた誇り高いガリ勉・駒野を巧いこと言って誘い込む。

さて、そこからは競技かるた一直線。競技かるたのルールやテクニックなどは全然知らなかったのだが、ルールはシンプルでありながら合理的で、プレーは意外に激しいものである。その辺りの情報の見せ方が大変巧い。よく整理できて分かりやすかった。

台詞も筋運びも、本当に無駄なく、伏線もしっかり機能した、非常に出来の良い脚本だと思った(ちなみに、脚本は小泉監督自身が手がけている)。

特に都大会の決勝の最後の一枚の決着のつき方が良かった。あり得ないような偶然でどちらかが勝ったりすると、観ていて白けてしまうものだが、あれはちょっと予想できなかった。うん、ああいうことはあるかもしれない、という感じのリアリティ。

そして、千早を単に可愛くてかるた上手というような存在にせず、試合が終わると力尽きて白目を向いて寝てしまうというような設定も面白い。

それでありながら広瀬すずの可愛さは縦横無尽に表れている。僕はよく言うのだが、アイドル映画においてはアイドルを可愛く撮ることはとても重要である。

そして、男優たちも含めて、かなりアップを多用した構図なのだが、かるたを取りに行く手の動き、弾き飛ばされて飛んで行くかるたの動きなどはスローモーションを使って非常に美しい画になっている。

千早がライバルの須藤(清水尋也)から初めて奪ったかるたが「心あてに」の句で、飛んで来たかるたが畳のへりから落ちて「おきまとはせるしらきくのはな」のかな文字が見えるシーンなどはとても印象が強い。

ドローンなども駆使して綺麗な景色を挟みながら、ツーショットの画がどれもとてもきれいだと思った。

さて、来月には『下の句』が上映される。最近は最初から前後編に分けて撮影/上映する映画が多く、下手すると前編に全く終息感がなかったりするのだが、この映画は一応『上の句』が東京地区予選の決勝までの話で、ひと区切り付いている。

だから、あまり心配せずにまずこれを観に行かれたら良いのではないか。

後編では、上の句ではあまり出番のなかった千早と太一の元チームメイト・新(真剣佑)が本格的に絡んでくることになりそうだし、新しいライバル詩暢(松岡茉優)も登場する。僕としてはこの先の恋の行方も気になるので、迷わず観に行くつもりである。

日本ではこの手の映画はあまり高い評価が得にくいのであるが、僕は上質の青春映画であると思う。ただ、エンディング・テーマが Perfume というのだけは、おいおい、それはちょっと違うぞ、と思った(笑)

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