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Sunday, February 07, 2016

映画『俳優 亀岡拓次』

【2月7日特記】 映画『俳優 亀岡拓次』を観てきた。横浜聡子監督。

実に前作の『ウルトラミラクルラブストーリー』から7年も経っている。その間、短編は何作か撮っているようだが、ここまで食いつないで長編の制作公開にこぎつけたことを祝したい気分である。

今回は戌井昭人の原作小説があることもあって、『ウルトラミラクルラブストーリー』よりもずっと解りやすい、と言うか、突飛なところがあまりなく、とっつきやすい映画になっている。

公開前に誰かがネットに「横浜監督の作品は客が入らない。この映画もそういう匂いがプンプンする」みたいなことを書いていたが、満員に近い大入りである。ああ良かった。これなら7年も空けずに次の作品が撮れるのではないだろうか。

ただ、この大入りは横浜聡子目当てではなく、俳優・亀岡拓次に扮した主演の安田顕の人気によるものだろう。

安田顕は確かに嵌り役だった。だが、この映画は横浜聡子監督でなければ撮れない仕上がりになっている。もっと言えば安田顕と横浜聡子の組合せがしっかり化学反応した面白い映画になっている。

亀岡拓次は脇役の役者である。が、脇役ではあるが端役ではない。台詞もあればアクションもある役柄で、観客にしっかり印象を残せるクラスの役者である。ただ、街で見かけた時に、「あ、俳優の○△※□だ!」とフルネームを思い出せるかどうかは疑問である。

始まってすぐのスナックのシーンで、亀岡の隣に座る客の役で神戸浩(かんべひろし)という役者が出ているのだが、僕はこの人の大ファンである。『ビリィ★ザ★キッドの新しい夜明け』(1986年、山川直人監督)で一目見て、と言うか、一声聞いて、一発でファンになってしまったのだが、亀岡拓次は多分そういう存在である。

だから、この映画の中でも、監督に昇格してまだ日の浅い山之上(新井浩文)が、わざわざ脇役の亀岡を呼び止めて「昔からあなたのファンだった」と言うシーンがある。スペインの巨匠スペッソ(ガルシア・リカルド)からもお呼びがかかるし、大女優・松村夏子(三田佳子)の舞台にブッキングされたりもする。

さて、映画には当然亀岡の実生活のシーンと亀岡が出演する映画や舞台のシーンの両方が出てくるのだが、それに加えてさらに亀岡の妄想のシーンが出てくる。この配合が絶妙である。

冒頭から誰かに追われて逃走する男が出てきて、こういう映画だと知らずに観に来た人はアクション映画と勘違いするかもしれない。しかも、脇役だから亀岡はほとんど映らない(笑)

その次は撮影終わってスナックで飲んでいるシーン。次は長野県諏訪市でのロケ。そして、撮影終了後、諏訪市の居酒屋で、父の店を手伝う室田安曇(麻生久美子)に巡り会う。そして、この一連の展開の中にも、こそっと亀岡の妄想が混ぜられている。

この映画は実生活、映画、妄想の3つをシームレスに描き出す。そして、その境界線の不分明さが、逆に俳優・亀岡拓次の生活感を醸し出してくるから面白い。

こういうことができるので、映画のほうが(設定をある程度文字で明らかにしながら進んで行くしかない)小説よりも面白いのではないかと思う。で、この不分明な感じこそが横浜監督の真骨頂なのである。

スペッソのオーディションを受けるのはホテルの一室や小さなスタジオではなく、どこだか分からない広い倉庫のような場所で、演技の相手役は影絵である。

俳優仲間の宇野泰平(宇野祥平)と地方の映画館に行って、ドアを開けたらそこは松村夏子と亀岡の芝居の真っ最中である。

亀岡は安曇への思いを断ち切れず、突然安曇のいる諏訪市まで単車に乗って行くのだが、バックの風景は昔の映画の走行シーンによくあったようなスクリーンである。

Kameokatakuji

もちろんわざとそういうものを持ってきて、虚実の境界をぼやかせているのである。こういう感じは『ウルトラミラクルラブストーリー』から引き継いでいるなあと思った。

兄弟のように仲が良く、飲んだくれてばかりの亀岡と宇野の関係性が良い。必ずもらい煙草をする亀岡の習性が人物像をうまく肉づけている。しかも、そもそも原作小説のモデルになったのが宇野祥平であるという説もあって、まことにおかしい。

初めのほうに出てきた、恋人の宇宙飛行士を殺した女性宇宙飛行士のおかしなエピソードが、いきなり後半で蘇ってくる。

2階で物音がして、亀岡と安曇が無言で上に目をやるところなんて、様々な意味が溢れ出しそうな、本当に良いシーンである。

おかしなおかしなエピソードを重ねながら、亀岡拓次は終始愛すべき男として描かれる。

気持ちの良い映画だった。

ところで僕は映画を観ると必ずパンフレットを買うのだけれど、翌年には悉く捨ててしまう。だが、今回は捨てない。何故なら横浜監督のサイン入りだからだ(笑)

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