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Sunday, February 28, 2016

映画『女が眠る時』

【2月28日特記】 映画『女が眠る時』を観てきた。『スモーク』を撮ったウェイン・ワン監督と西島秀俊、ビートたけしの共演と聞いてそれだけで惹かれ、中味は全く知らずに観に行った。

結論から先に書くと、これだけ“思わせぶり”で引っ張って結局どこへも“収束”しない映画というのは、学生の習作などにありがちな、思い入れが充分伝えられていない失敗作であることが多い。

しかし、にも関わらず、「これは一体何だったのか」と首を傾げながらも、登場人物の一人ひとりになんだか妙に惹かれて、結局映画が終わった頃にはもう一度観たいという気にさせるのは、やはりこれがウェイン・ワン監督の力量なのだろう。

僕は、この難解さは恐らく原作を 2時間の作品にまとめようとして削りすぎたためではないかと最初は考えたのだが、パンフレットを読んでみると、どうやらその逆であるようだ。

原作はスペイン人作家ハビエル・マリアスの短編。映画は 5日間を描いているが、原作では「僕」と「初老の男」がプールサイドで語り合った「最初で最後の夜」を中心に書かれているとのこと。

その非常に短い小説をウェイン・ワンが肉付けしたのである。もちろん事前にみっちりプランニングした後で、自らのインスピレーションを総動員し、役者の意見も取り入れながら、現場でコロコロと台詞やシーンが変わっていったという。

逆に、そういう撮り方をしているから、どの人物にもリアリティがある。

いや、登場人物たちの行動自体は、観ていて「そんなことするか」「そこまではやらんだろ」と思うようなことが多いのに、それをやってしまう不条理、狂気めいたところにリアリティがあるのである。

健二(西島秀俊)は作家である。デビュー作が好評を博し、2作目も出版されたが、その次がずっと書けないまま。もうダメかもしれないと思い、秋からは就職しようかなどとも考えている。

妻の綾(小山田サユリ)は編集者。仕事を兼ねて、健二と一緒にリゾートホテルに来ている。初日こそ健二と一緒に過ごしたが、2日目からは昼間はずっと近所に住む作家の家に通っている。

健二と綾がプールサイドで休んでいると、プールを挟んで向かい側のデッキチェアに初老の男・佐原(ビートたけし)と美樹(忽那汐里)のカップルが目に入る。佐原は水着の美樹の背中にオイルを塗ってやったりしている。

夫婦にしては年が離れ過ぎで、親子にも見えない怪しいカップルに、健二は俄然興味が湧いてくる。

そして、その夜、プールサイドで佐原を見つけて話しかけてみたら、なんと佐原は美樹の寝姿を10年以上毎日撮影・録画しているという。その話が作家の好奇心に火をつけてしまった。健二はまず2人の部屋を覗くようになり、さらにどんどん危ない方へ行ってしまう。

ウェイン・ワンは役者の経験談や世間話をすぐに台詞に取り入れて、シーンを再構築して行ったようなのだが、その最たるものが一体何屋なのか分からない店の主人・飯塚(リリー・フランキー)である。

この人物がこのストーリーの中で果たす役割が何なのかさっぱり解らないのだが、彼が語るタイツとストッキングのデニールの話などは、異様で意味不明なのに、なんかとぐろを巻くように観客の心に居座ってしまう。健二とはまた違う趣の不条理に観客は取り込まれてしまう。

撮影は『さよなら歌舞伎町』や『ピース オブ ケイク』の鍋島淳裕なのだが、監督が中国出身だからなのか、あるいは僕のそういう思い込みなのか、やっぱり日本やハリウッドの映画監督とは撮り方もリズムも違うように思えて仕方がない。

次の台詞や次のシーンに移るまでの間が若干長いように思う。

ここでカメラが切り返してもう一人の人物を映すだろう、と思うところでカメラは切り替わらない。

2人の会話のシーンで、喋っていないほうの人物をアップで撮っていることが少なくない。

かと思うと、刑事(新井浩文)が健二に事情聴取に来たシーンでは、ホテル内を歩く2人をかなりの長回しで追って行く。

後半はカメラの水平が取れていなかったり、手持ちのカメラが不用意に揺れていたりもする。

この映画はそういう手法を重ねながら、僕らが今見ているこのシーンは、実は健二が見ている夢なのではないか、あるいは執筆している小説の1シーンなのではないか、などと観客を惑わせて来る。ゆらゆら揺れてざわざわした気持ちになる。

みんな壊れかけているが故に、逆に人物が見事に立っている気がする。

脚本の日本語化を担当した砂田麻美はインタビューに答えて言っている。「ウェイン監督こそが佐原であり健二である」と。言い得て妙だと思う。こういう感じは多分ほかの監督には出せないだろう。

ところで、小山田サユリという女優は、僕は昔から大好きなのだが、この人、今までにヌードってあっただろうか? 今回はふんだんに彼女のヌードが見られて、僕は虚心坦懐に嬉しかった。

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