『鈴木さんにも分かるネットの未来』川上量生(書評)
【1月18日特記】 これは KADOKAWA・DWANGO の代表取締役会長で、スタジオジブリのプロデューサー見習いでもある川上量生氏が、その師匠であるスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーのために書いたインターネットの解説本である。
そういうことに凡そ疎い「鈴木さんにも分かる」というタイトルがこの本の売りである。
そう言われるとこれはちょっと僕らが読むような程度ではない、かなりレベルを落とした入門書のように思えるのだが、なんのことはない、途中からはネットにかなり詳しいつもりの人でも面白くて読むのをやめられなくなるくらいの本である。
確かに最初の何ページかはすごく基本的なことが書いてある。だが、最初の章を「ネット住民とはなにか」から始める辺りが、いかにもニコ動のトップらしい噛み砕き方である。
で、確かに「鈴木さんにも分かるように」という意図は見えるのだが、逆に「鈴木さんだからこれくらいで良いだろう」という姿勢は全く見えないのである。かなり深いところにまで触れてきているので、「おっ?」と思ってしまう。
僕が最初に感心したのは116ページ辺りからの「コンテンツの進化」についてである。「コンテンツが動的なものに変化していく」という特徴をコンテンツを語る出発点に据える発想は、やはり川上氏ならではの卓見だろう。
そして、インターネットにおける「オープン」と「クローズド」の違いを Facebook と iPhone を並べて一気に説明してしまう辺り(133ページ)、人間と機械の共存を説くのにグーグルを引き合いに出して、それを「機械からなる人工臓器」と定義する辺り(209ページ)と、どんどん面白くなってくる。
さらに経済的合理性の成立の有無から従来の(プロによる)コンテンツと UGC の違いを説明しながら、だけども UGC というものは必ずしもクリエイターから搾取するひどい仕組みではないという分析(272ページ)など、独自の見方でありながら、決して分かりにくくない記述が次々と出てくる。
その中でも白眉と言えるのは、297ページからのビットコインの説明である。何を読んでもよく分からなかったビットコインの仕組みが、僕はこれを読んで初めてストンと腑に落ちた。
最終章のネットとリアルの分析も、ニコ動の偉い人が書きそうな我田引水なところが全くなく、川上氏が如何にクールな観察眼を持った人間なのかが非常によく解るのである。
最後はちょっと尻切れトンボな感じがないでもないが、これは良書であると思う。鈴木さんがこれを読んで分かったかどうかなんて、もうどうでも良い(笑)
これは僕にとって、とてもスリリングな教科書であった。
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