『被告人、ウィザーズ&マローン』スチュアート・パーマー&クレイグ・ライス(書評)
【12月6日特記】 今までに読んだ以外のマローンものがまだ翻訳で読めるとは思わなかった。マローンというのはクレイグ・ライスの一連の小説の主人公である小柄で飲んだくれの弁護士である。
僕はこのジョン・J・マローンとヘレン&ジェイク・ジャスタス夫妻が活躍するシリーズが大好きで、今まで長編は全部読んできた。
そして、あとは短編を残すのみとなったが、日本では1997年に創元推理文庫から出た『マローン殺し』(表題作以下10編を所収)以外に翻訳は出そうもないと諦めていたのである。
ところが、思わぬところで別の作品に出会った。それがこの『被告人、ウィザーズ&マローン』である。
これはスチュアート・パーマーとの共著による6編を収めた短編集である。僕はこのパーマーという作家を全く知らないのだが、ライスと同じくスクリューボール・ミステリと言われる、謎解きよりもコメディに重きを置いた作風の作家で、しかも、私生活ではライスの親友であったと言う。
これらの短編は2人でアイデアを練り、文章そのものはパーマーがほとんどひとりで書いたらしい。
で、スチュアートの作品でライスにおけるマローンに当たるのが、馬面のオールド・ミス(これは今では完全な差別表現となったがw)の元教師ヒルデガード・ウィザーズである。
この2人がページの上で珍妙な掛け合いを次々と披露している。この2人ががっちり組んで、自由極まりない発想と失礼極まりないしっちゃかめっちゃかの捜査をして、容疑者や警官や判事らを騙したり、はぐらかしたり、煙に巻いたりしながら、真犯人を突き止めていく。
楽しくて仕方がない。
2人の著者が死んでから、もう少し若い第3の作家が2人の代表作の主人公を両方登場させて新しい作品を書いたりすることはたまにある。そういう試みも面白いのは面白いのだが、それはあくまで「解釈」のレベルの留まってしまう。
その点、この6編の短編は、何しろマローンとウィザーズの本物の作者が、顔を突き合せて、恐らくめちゃくちゃ楽しみながら作った物語である。だから、マローンと(こちらは読んだことがないのだが)ウィザーズの個性は見事に継承され、いつも通りの抱腹絶倒なのである。
ライスのファンとしてはジャスタス夫妻も出てきてほしいところだが、さすがにそこまで拡張すると話をまとめるのが難しくなってくる。
その代わりに、マローンの秘書マギーや、ダニエル・フォン・フラナガン警部、天使のジョーら常連の脇役がちょこちょこ入ってくる。ウィザーズものの常連も出てきているようである。
そして、いつものように、なんだかいい加減なような、騙されたような気分の謎解きで物語は終わる。犯人は捕まるが、マローンは結局儲からなかったり、惚れた女に逃げられたり、いつものように葉巻の灰を背広に落としたりして、冴えない三文弁護士のままである。
これが楽しい。この楽しさを一度味わってしまうとやめられなくなる。
最後の2編は2人の手紙でのやりとりを素にライスの死後に書かれたらしいが、これはライスにとって何よりの供養であるし、ファンが読むにも最高の弔辞となったのではないだろうか。とても嬉しい本である。
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