『S -最後の警官-』マスコミ試写会
【8月10日特記】 映画『S -最後の警官- 奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE』のマスコミ試写会に行ってきた。テレビ・シリーズは全部観ている(とは言え、例によってその記憶はほとんど全て消えかけているけどw)。
テレビを見ていない人には分からないような構成には決してなっていないが、しかし、テレビ10話にわたって展開された人間関係を理解した上で観ないと、どうしても薄っぺらなものになって、味わいが少し減るのではないだろうか?
つまり、この映画は、ここまでテレビで描かれてきたいくつかの対立軸の絡み合いこそがミソなのである。
同じ警察組織でも、犯人を撃ち殺してでも「制圧」する SAT と生きたまま「確保」することにこだわる NPS の確執。しかし、そのそれぞれの長である中丸(高嶋政宏)と香椎(大森南朋)の対立は単純な対立ではなく、元々上司と部下であったという微妙な関係の上に立っている。
そして、SAT と NPS のそれぞれの隊員である蘇我(綾野剛)と主人公の神御蔵一號(向井理)は、ともにテロで身内を失った経験を持ちながら、その結果一方は容赦なく撃ち殺すことに、他方はあくまでも殺さないことにこだわり続けることになる。
さらに、同じくスナイパーである蘇我と林イルマ(新垣結衣)は SAT 対 NSP という対立構造の上に、男と女という対比がある。
それに加えて、今回は海上での犯罪なので、そこに海上保安庁の SST という新たな組織が絡んで、そこに陸と海という対立が描かれ、中丸、香椎という2人のリーダーに倉田(青木崇高)という新たな個性のリーダーを交えての三つ巴となる。
今回も犯人は国際テロリストの“M”こと正木圭吾(オダギリジョー)であるが、テレビ・シリーズと同じく、その背後には霧山(近藤正臣)と天城(菅原大吉)という体制側の人間が絡んでいそうな匂いがある。
物語はバスジャックと核燃料輸送船ジャックの同時発生で幕を開け、日本を滅ぼそうとするテロリストと警察の、命を賭けての対決となる。設定とストーリー進行の面白さもあるが、そこに脇を固めるキャラクターの、それぞれ特徴的な役割分担が加わる。そこが面白い。
NPS隊員で言うと、今回はあまり活躍の場がなかったが、梶尾(高橋努)とポインター3号の人犬コンビがいて、交渉のプロ古橋(池内博之)がいる。
防御するばかりの一號のために科警研の横川(土屋アンナ)が特殊合金の盾を作ってやり、蘇我とイルマが背後から撃って援護する。NPS と SAT は空から、SST は海から船に乗り込んでくる。
──そういうバリエーションの面白さである。
犯人と警察の知恵比べがあり、銃撃戦を含んだ激闘があり、すわ核爆発という設定がある。
しかし、そんな物語上の仕掛けよりも何よりも、今回の白眉は事件が落ち着いた後のラスト・シーンである。
テレビ・シリーズから引きずって描かれている一號とゆづる(吹石一恵)の恋愛関係は進むようでやっぱり全然進まない。その2人の関係性を踏まえた本当に秀逸な脚本だった。
ネタバレになるので書けないが、これは見事な“オチ”と呼んで良いのではないか。このシーンのお陰で、ずっと殺し合いをしていたドラマだったのが、最後に来て優しく緊張が解ける感がある。
警察組織や核燃料の描き方や、全体の筋運びの面では、若干設定の甘いところもあったかもしれないが、このラストで全ての欠点が吹き飛んだような気がする。
一緒に見に行った同僚には「変なところを褒める」と言われたが、僕はこのラストこそがこの映画のポイントとなっているように思う。やはり人間の心を動かすのは、アクションや銃撃戦ではなく、人間のドラマなのではないだろうか。
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