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Sunday, August 16, 2015

映画『野火』

【8月16日特記】 映画『野火』を観てきた。終戦70週年の、しかも終戦記念日付近でこんなことを言うと怒られるかもしれないが、どんなものであれ、僕はどうも戦争ものの映画を観る気にならない。

では、この映画をなんで観たかというと、決して大岡昇平の原作を昔読んで感動したからというようなことではなく、塚本晋也監督が撮ったからである。

塚本作品を軒並み観ているというようなファンではないが、何本か観てきた者としては、なんで塚本監督がこんなものを映画化しようとしたのかが知りたかった。

塚本晋也と言えばやはり『鉄男』だろう。あれで一気に名が売れた。僕が最初に観たのは、その次の『ヒルコ/妖怪ハンター』だった。今世紀に入ってからの作品だと『悪夢探偵』の1と2が印象に残っている。

ちなみに『鉄男』は主人公が鉄くずのバケモノになる話だ。塚本監督をこれまで全く知らなかった人でも、これらのタイトルと『野火』を見比べてみて、繋がるところはないだろう。

スティーブン・スピルバーグはある時期「アカデミー賞がほしいばっかりに、急に教科書臭い話を撮り始めた」と陰口を叩かれた。塚本監督が戦争の悲惨を描いた作品に手を染めたのも、そんな動機なのだろうか?

などと、観る前はいろんなことを考えたのであるが、観てしまうと、今回の『野火』が今までの作品群と見事に繋がっているのが判る。むしろ、一目瞭然である。

鉄くずのバケモノになるのも、夜ごと理不尽な悪夢に苛まれるのも、戦地で行く当てを失って命からがら彷徨うのも、どれもこれもみんな同じ不条理でありホラーなのである。

だから、作風は今までのホラー的なもの延長線上にあって、何の違和感もない。スプラッタであり、グロテスクである。激しく揺れるハンディカメラの映像もいつもと同じだ。

きっとそこに描かれているのは人間のコントロールを超えてしまった、何か恐ろしいものなのだ。

時折、戦地の自然の風景がやたらと美しくインサートされるのが見事に皮肉である。

この映画を「戦争反対」というような単純なイデオロギーに矮小化すべきではないと思う。いや、もちろん戦争に対する嫌悪感は画面全面に出ている。しかし、塚本監督が描こうとしたのはもっと深い、人間の限界にまつわる何かなのである。

主演の塚本晋也が、塚本晋也と思えないくらい痩せていて、すぐにそうだとは気づかなかった。リリー・フランキーもやつれていて、姿では分からず、声で彼だと分かった。中村達也もそうだ。

みんなが壮絶な演技をしている。敵の姿をほとんど映さない演出も怖さを増している。

でも、これだけ陰惨かつ残酷なドラマで、色気もないし、最後にカタルシスも望めない作品となると、やっぱり客が来ないだろうな、と思う。いや、その割には入っていたけど、ま、大入りではなかった。

とにかく重い作品なので、観る気力が漲っているときに観てほしい。

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