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Thursday, July 30, 2015

映画『海のふた』

【7月30日特記】 映画『海のふた』を観てきた。

豊島圭介監督作品との出会いはテレビドラマ『古代少女ドグちゃん』(合計4話を監督)が最初だったが、映画もオムニバスの『夢十夜』(そのうちの第五夜を監督)と『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』を観ている。

これらのタイトルと比べるとそう感じて当然だと言われるかもしれないが、この監督ってこんなに肌理の細かい、凡そ男性が描いたとは思えないような情趣に溢れた映像を作れる人だったのか、と驚いてしまった。

前作『花宵道中』を見逃していなければ(実際見ようと思っていながら見逃した)、印象も違ったのかもしれない。

とにかく綺麗な画、印象的な構図が多い映画である。引いた画面いっぱいに海や空や樹木や町並みが収められている。

そもそも僕が引いた画と奥行きの深い構図が好きだということもあるのだが、無駄に人物の顔のアップばかりで埋めるのではなく、映画という大きなスクリーンを十全に活かした画作りだと感じ入ってしまった。

撮影は戸田義久である。『誰も知らない』で撮影助手を務めた後、一本立ちし、僕が観た作品では『かぞくのくに』を撮っている。

原作はよしもとばななの小説である。

若い層に人気の作家だというので、僕もかつて何作か読んでみたのだが、年齢のギャップによるのかもしれないが、僕には合わない作家のようで、あまりピンと来なかった。

うまく説明できないが、ちょっと捨象しすぎているように感じるのだった。そして、そういう感性ばかりが成長するのは、若い人たちにとって必ずしも良いことではないようにさえ思った。

しかし、この映画が原作にどれほど忠実なのかは解らないが、僕が原作に対して覚えたような拒否感はなかった。抽象的な匂いは残っているが、ひとつひとつのエピソードが機能的に繋がって、伏線の効いた物語になっていた。

そういう点では黒沢久子の脚本が非常に整理されており、抑制も効いていて良かったと思う。この人は『百万円と苦虫女』や『きいろいゾウ』、『四十九日のレシピ』などと手がけた巧い作家である。

象徴性の高い作品になっていたように思う。

東京で舞台美術の仕事をしていたまり(菊池亜希子)が故郷の西伊豆の田舎町に帰ってきた。使われていなかった納屋を借り、自分で改装してかき氷屋をすると言う。

そこに、母の旧友の娘であるはじめ(三根梓)がやってくる。左の頬と胸にやけどの跡がある。祖母が死に、財産分与の争いから、祖母とともに住んでいた家を売ることになり、そのケリがつくまでまりの母が預かることにしたのだ。

そこから先はよしもとばなならしい再生の物語である。

ただ、なんとなく自然に抱かれて元気になりましたというような話ではなく、海やサンゴのかけらや、まりの元カレの酒屋、落書きのイラスト、海外にいるはじめの彼、町の衰退、氷いちごを食べたがる女の子などのエピソードが巧く絡み合って転がり、良いストーリーになっていた。

初めのほうのシーンではじめがスマホを触るシーンがあるのだが、これが最新の iPhone6 ではなく2世代前の iPhone4シリーズであるところなど、いかにも設定が巧く行っていて、芸が細かいなと思った。

そして、菊池亜希子が良い。

何かの紹介文で「『深夜食堂』の菊池亜希子」という表現を目にしたのだが、僕は顔ははっきり憶えているのだが、どんな役だったか思い出せない。ただ、この娘ちょっといいな、と思った記憶だけはある。

ここに来て『グッド・ストライプス』も主演で、大きな役が続いている。

それから三根梓。

3年前の『シグナル』での初演技は、役柄が難しかったせいもあるが、あまりにひどくてしんどかった記憶がある。あれからだいぶ稽古もしたのだろう。今回は非常に巧くなっていた。

あの映画の評で僕は「眼力(めぢから)のある女優である。今後演技の幅を広げればもっと味が出てくるだろう」と結んでいるが、そのとおりになってきて、我がことのように嬉しい気がする。

小さな映画館だったが、客が8人だけというのは、平日とはいえ、さすがに淋しい。もっともっと観てもらう値打ちのある映画であることは間違いない。

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