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Sunday, July 19, 2015

映画『バケモノの子』

【7月19日特記】 映画『バケモノの子』を観てきた。細田守監督。

バケモノの子と言っても、バケモノの子孫ではないし、前作『おおかみこどもの雨と雪』みたいにバケモノと人間の間に生まれた子どもでもない。バケモノに育てられた子どもの話である。

映画は最初のひと言を聞いただけで、あっ、大泉洋だ、と判る声で始まる。ナレーターかと思ったらそうではなく、喋ってはいるが描かれてはいない所謂「オフ」の場面だっただけで、やがて大泉が声を務める猿のバケモノ・多々良の絵が出てくる。

すると、多々良の隣にいる豚のバケモノ・百秋坊はリリー・フランキーだとすぐに分かる。そして、その2人の目下の話題であり、2人の目の前にいるバケモノ・熊徹が役所広司であることにも間もなく気がつく。

この映画には他にも著名な俳優が大勢アフレコをしている。熊徹に育てられた人間の少年・九太が17歳になった途端に声優が変わるのだが、これもひと言目で染谷将太だと分かった。

バケモノ界の最高指導者・宗師の声も、ずっとどこかで聞いた喋り方だと思っていたのだが、中盤を過ぎたところで津川雅彦だと気づいた。

9歳の時の九太と女子高生・楓の声がそれぞれ宮﨑あおいと広瀬すずだと見破れなかったのが悔しい。

こういう巧い役者たちに声をやらせたことが、この映画の成功の大きなポイントになっていると思う。こう言うと申し訳ないが、TVアニメばかりやっているプロの声優たちは、どうしてもパタン化してしまう傾向がある。

プロの俳優のほうが、遥かに引き出しが多いのである。だから台詞に変化がついて、場面にメリハリが出てくる。

九太は本名を蓮と言い、両親が離婚して父が出て行き、育ててくれた母が事故で死んだがそこに父は現れず、いけ好かない親戚たちが自分を「本家」に引き取ると言う。それが気に入らなくて9歳の蓮は逃げ出す。

──これが人間の住む渋谷の話。

一方、バケモノが住む渋天街では、指導者である宗師が神に転生するために引退を表明し、後継者の選考が行われることになる。候補者は武道に長け人望も厚い猪王山と、腕っ節は強いが身勝手な性格のため皆に敬遠されている熊徹である。

渋谷と渋天街はビルの隙間の路地で繋がっており、そこに迷い込んで渋天街に入ってしまい帰れなくなった蓮が、不本意ながら熊徹の弟子になる話である。蓮は意地を張って自分の名前を教えなかったが、熊徹に勝手に九太と名付けられる。

細田監督オリジナルのこのお話は juvenile literature、日本語で言うなら少年少女文学である。大人が観て驚くような話ではない。度肝を抜くような大どんでん返しがあるわけでもない。

でも、少年少女には良い話だろうと思う。比較的分かりやすい寓意が見て取れる。テーマは人間の心の闇である。

そういう重くて暗いテーマを扱いながら、登場人物には魅力があり、展開には希望がある。いつしか大人になった時に、生きて行くのための糧となり、活力になっているだろう。

前半は眠かったが、蓮が人間界に戻り、楓と会ったところからは、大人が観ても面白くなる。

例によって、奥行きの深い、印象的な構図をたくさん見せてくれる。前作と同じく背景が 3DCG で人物(バケモノ)が平面作画という組合せがきれいなのだが、時々寄った画になると急に平面だけになるのは多少違和感がある。

でも、この観察眼の細かさと、世界を広く捉える感性、そして、描き方の多様性は大したものである。

今回も奥寺佐渡子が「脚本協力」という形で参加しているが、台詞に前2作ほどのキレはない。でも、細田監督自身による脚本は少年少女に対する温かさに満ちている。

感受性の強い少年少女たちにぜひ観てほしい映画である。

映画の最後に THE BOY AND THE BEAST という英語版のタイトルが出る。

誰でも判るように、これは THE BEAUTY AND THE BEAST(美女と野獣)を踏まえている。ただ踏まえているだけではなく、THE BEAUTY AND THE BEAST と同じように B の頭韻になっているところが神経が細かいと思う。

これはそんな風に神経の行き届いた作品である。

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