『時をかける少女』
【7月20日特記】 hulu で細田守監督の出世作『時をかける少女』を観た。『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』と3作連続で映画館で観て、これだけ観てないのもアレかな、と思ったから。
いやあ、これは情感たっぷりな、本当に良くできたアニメである。『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』が子供騙しだとまでは言わないが、それらに比べると遥かに大人っぽい、しっかりと大人向きの作品である。
大人向きすぎたせいか、タイム・リープの回数のカラクリなどちょっと難しくて、なんだかあまり理解できないところもあったが、多分もう一度見たら解ると思う(笑)
──そう、あんまり解らなかったけどまあいいや、ではなく、是非もう一度観たいと、大人が思うような作品なのである。
しかし、そこで展開するのは大人の社会の物語ではない。これは SF の衣をまとってはいるが、紛れもない青春ドラマである。僕らは決してこんな SF的な経験はしていないものの、しかし、誰もが経験をしたような青春が描かれているのである。
やっぱり何を措いても奥寺佐渡子の脚本が素晴らしいと思うが、プロットは恐らく細田監督によるものなのだろう。筒井康隆の原作を基に、しかし、そこからは一歩も二歩も踏み出して、よくぞこういう設定と展開を考えたと思う。
特に、時を超えるために文字通りジャンプするという発想と、そのジャンプのシーン、リープした直後のシーンの、アニメとしての描き方が秀逸である。
『時かけ』については、原作こそ読んでいないものの、1983年の大林宣彦監督(原田知世主演)と2010年の谷口正晃監督(仲里依紗・石橋杏奈主演)の映画は観ている。いずれもすこぶる良かった。
今回のアニメは、製作年度はその両者の中間に位置し、主人公の紺野真琴の声を務めているのは谷口作品主演の仲里依紗である。
ちなみに、大林作品の主人公・芳山和子(原田知世)の約20年後を描いたのがこの細田アニメで、主人公の紺野真琴は芳山和子の姪ということになっている。芳山和子も登場し、美術館で絵画の修復の仕事をしている。
和子は真琴の良き相談相手であり、「私も若いころはよくタイム・リープしたものよ」などと嘯くので、真琴に「魔女」と言われるシーンがある。
もうひとつついでに書いておくと、谷口作品では主人公は芳山和子の娘・芳山あかりで、これを演じているのが仲里依紗、そして、母・和子の若いころを演じているのが石橋杏奈である。
タイトルが同じなので、同じ作品のリメイクだと思っている人がもしいたら(僕も最初はそう思っていた)、そういう関係なので、是非とも3作とも観てほしい。
ともかく画面を大きく使う監督で、夕焼けや入道雲、細かいところにまでこだわった町並み、学校の中の日なたと日陰の対照など、背景だけを観てもじんと心に沁みてくる作画である。
真琴の性格もきっちりと最初に措定した通りに上手に描けている。
一般の人間にとっては目の前を過ぎ去っていくのをただやり過ごすしかない「時」というものの存在が、時の限界を超える能力を身につけた登場人物の経験によって、逆になおさら切ないものとして現れる。
これは名作だと思うな。4本観た細田アニメの中では、作画テクニックとしては一番単純かもしれないが、作品としては最高傑作ではないかと思う。
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