『クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン』鴻上尚史(書評)
【7月18日特記】 これはどちらかと言えば鴻上尚史の本ではない。彼が足掛け10年司会を務めているNHK-BSの『cool japan』という番組の本である。僕はちらっと観たことがある程度である。
この番組はスタジオに、日本に来ている外国人を呼んで、ある時は番組スタッフが選んだ如何にも日本らしい物を見せ、ある時は日本人にはちょっと思いつかない日本の素晴らしさを外国人に語らせるような番組である。
そして、外国人ゲストは、時には日本全体を否定するような、スタッフも予期しなかった「ぶち壊し発言」をすることもある。その辺が、鴻上が司会をしていて一番面白いところのようだ。
で、この本は言わばその番組のダイジェストである。
読み進んで行くと、え、それって外国にはないの、とか、日本人にとっては当たり前のそんなものが外国人にはカッコイイのか、とか、へえ、それも日本で生まれたものだったのか、とか、いちいち驚きがある。なるほど言われてみればそうかもしれないと納得もする。
本の大部分はそういう番組事例の羅列である。ひとつひとつの事例はとても興味深いのだけれど、しかし一方で、如何にも鴻上尚史らしい分析や推論は、あるにはあるのだけれど、あくまで随所に見え隠れするという程度である。
そういう意味で、鴻上尚史のファンで彼の著作を何冊も読んでいる人にとっては、少し物足りない本かもしれない。
しかし、いよいよ本も終わるというあたりになって、つまり「エピローグ」や「最後に」と題したパートになって、如何にも鴻上らしい総括が入ってきて、この本はにわかに番組の本から鴻上の本になってくる。
そこにあるのは日本人としての危機感である。この危機感は、留学や公演で何度も海外に行っている彼だからこそ持ち得るものではないだろうか?
個々の日本人の意識の持ちようや、国や政府の対応の仕方など、僕らが当たり前に通りすぎているところを、もう一度ちゃんと検証して行かないと、日本はいつまでもクールと言ってもらえる存在ではなくなるぞ、という危機感がある。
この本は「なるほどな。ああ、面白かった」と言って閉じてはいけない本なのである。それは鴻上尚史の芝居を見終わった時に、決して「ああ、面白かった」で終わらないのと同じだと僕は思う。それが鴻上尚史の持ち味だと僕は感じるのである。
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