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Saturday, July 11, 2015

映画『きみはいい子』

【7月11日特記】 映画『きみはいい子』を観てきた。

呉美保監督作品を初めて観たのは『オカンの嫁入り』だった。大竹しのぶと宮﨑あおいという巧い女優を揃えて、とても良い作品だと思ったが、世間の注目度は低く、「この監督、きっとこのまま消えちゃうんだろうな」と思った。

ところが次の『そこのみにて光輝く』がものすごい受賞ラッシュとなった。いや、賞を獲っただけではなく、とんでもなく凄みのある作品だった。

その延長上でこの『きみはいい子』を観ると、この監督はどんどん伸びているなと実感できるような作品だった。

ストーリーはいくつかのエピソードが交錯する。どこの都市かは知らないが、観覧車が見える印象的な風景の町並みである。

ひとつは尾野真千子扮する娘を虐待する母親の話。

娘が憎いわけではない。娘に対する愛情はある。でも、ときどき娘がしでかす粗相に沸き上がる怒りを抑えることができず、暴力を振るう。その裏には自分が子供の時に親から暴力を受けたトラウマがある。

映画は彼女が娘をいたぶるシーンから始まるが、これがかなり痛々しくて、重苦しい。彼女と娘がマンションの廊下を向こうに歩いて行くのをカメラが引きながら撮っている(つまり、人物はかなりの速さで小さくなる)のが怖い画になっている。

その対照として、池脇千鶴扮するママ友が描かれる。ふたりの子どもをバランス良く育て、ある時は可愛がりある時はメリハリ付けて叱る。尾野真千子も巧い役者だが、池脇千鶴の自然な演技は桁外れに巧い。

2つめは高良健吾が演じる新米小学校教師の話。

てんでに言うことを聞かない子どもたち、身勝手なクレームを入れてくる親たち、今イチ溶け込めない同僚教師たちの間で、半ばふてくされながら、それでも一生懸命やっている。

その彼を悩ませるのが、教室でおしっこを漏らした男児。苛められて帰宅してしまった女児。継父から帰ってくるなと言われて、雨の日もずっと校庭にいる男児など。

さらに、喜多道枝扮する、学校の近くに住む認知症の老女が描かれる。

彼女と絡むのは毎日彼女の家の前を通って帰る障害のある男児。彼は高良健吾の勤める小学校の障害者クラスの生徒で、スーパーに勤める母親を富田靖子が、担任教師を高橋和也が演じている。

この3つの話が却々交わらない。どう繋げて終わるのかなと思いながら見ていたのだが、後でパンフを読むと、この映画は原作の短編集から3作を採ってまとめたらしい。

『そこのみにて光輝く』に続いて脚本を担当した高田亮は、この3つの話を無理やり関係づけようなどというような気はなかったのである。

ただし、無理やり繋がりをつけることはしないまま、3つのエピソードを非常に巧く重ねている。そう、まさに重ねる感じ。今回の映画は間違いなくこの脚本の勝利だとも言える。

特に「抱きしめてもらう」エピソードが良い。抱きしめられた高良健吾が元気を取り戻し、抱きしめてもらった小学生たちに笑顔が浮かぶ。

児童たちが順番に抱きしめられた感想を語るシーンは、恐らく脚本ではなく、ほんとにそういう体験をしてもらって語ってもらったところをドキュメンタリ的に撮ったのではないだろうか?

そして、その後の池脇千鶴と尾野真千子のシーン。抱きしめる話が生きている。この辺の重ね方は観ていて「あっ」と叫びたくなるくらい巧い。

で、ストーリーの中でいろんなことを消化して行く中で、高良健吾の抱えていた問題がひとつ置き去りにされている。多分映画はこの行く末を描いて終わるのだろうと思っていたら、語らずに残す部分を随分多く取って終わった。

テクニック的に言えば、余韻というものをどう考えるかということだから、これはこれで良いと思う。

そもそも全てのことが映画の2時間の枠の中で解決してしまうのは不自然なことである。この先どうなるか全く分からないまま、でも高良健吾の意識の中に何かが芽生えたところまで描くというのは、ある意味非常に正直で公正な描き方である。

パンフを読むと呉美保監督はその辺りのことをはっきりと意識しているようで、こう言っている。

岡野(高良健吾)はものすごく中途半端なところで、ともすれば残酷な終わり方をしているのかもと感じました。(中略)映画を観た人が「岡野、がんばれ」と思えるようなものになったら──そう考えました。

そういう映画になっていると思う。

難しい要素をいっぱい織り込みながら、不自然にならず、よくここまでまとめ切ったと感心した。

余談だが、高良健吾の彼女役を演じたのが黒川芽以で、僕の好きな女優である。今回もそうだが、男を奈落に突き落としたり、男の気持ちを挫いたりする役をこれほど巧く演じられる女優はいないのではないかと思う。

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