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Friday, June 19, 2015

映画『海街diary』

【6月19日特記】 映画『海街diary』を観てきた。是枝裕和監督・脚本・編集。原作は吉田秋生の漫画。

いやあ、参った。家族同士の口喧嘩はあるが、事件も少なく、概ね穏やかな日常を描いていながら、これだけ胸に染み入ってくるのは何故だろう?

四姉妹の話だ。ただ、一番下だけが所謂「腹違い」。

長女の幸は綾瀬はるかが、次女の佳乃は長澤まさみが演じている。

この二人はともに『世界の中心で、愛をさけぶ』の主演女優である。綾瀬は映画版の、長澤はテレビドラマの。

当時両方を観て、綾瀬よりも長澤のほうがべらぼうに上手いと感じた記憶がある。

綾瀬が下手だと言うのではない。ただ、あの若さにして、目の泳がせ方の変化だけで、柔軟に感情を伝えてくる長澤に凄みを感じたのである。当時の綾瀬は年相応にやや固かった。

何故そんなことを思い出したかと言えば、今回の配役があの時の二人の差違を見事に活かしていると思ったからだ。

香田幸は生真面目でしっかり者の長女。綾瀬の固い、だけど、一途な演技が活かせる。綾瀬はこれまで、ややおっちょこちょいな、妹っぽい役柄も少なくなかったが、ああ、こういう役柄が嵌まるのか、と随分納得した。

そこに絡むのが、自由奔放で幾分ちゃらんぽらんな次女の佳乃である。長澤の柔らかい演技が綾瀬との見事な対照を作り出している。

そして、三女の千佳はちょっと変わり者で、明るく、マイペース。時々口論になる姉二人の緩衝材になっている。ここに夏帆を嵌めたキャスティングに感心した。『天然コケッコー』や『うた魂』の頃の、個性溢れる、チャーミングな夏帆が戻ってきたではないか。

鎌倉で暮らすこの三姉妹の父親が遠い山形で死ぬ。父親は何年も前に外に女を作って家族を棄てた。そして、その後また別の女と再婚して山形にいたのである。

その山形で、父の2番目の結婚相手との間に生まれ、3番目の結婚相手と暮らしながら、父の最期を看取ったのが中学生・浅野すずだった。演じたのは広瀬すずである。

この複雑な設定を、映画はとても手際の良い脚本で、冒頭の恐らく10分か15分で見事に伝えきる。

三姉妹は父の葬儀で初めてすずに会ったばかりなのに、別れ際の駅で幸が、乗り込んだ電車の中からホームのすずに「鎌倉で一緒に暮らさない?」と言う。

幸は二人の妹たちに何の相談もなく、唐突に持ちかけるが、佳乃も千佳も異論のない表情をしている。

そして、突然言われたすずは、少し迷うような表情を見せたが、ドアが締まる瞬間に「行きます」と即答する。

ここまでの脚本がよく書けているので、観客は既に四姉妹それぞれの感情をしっかり共有できている。

だから、走り出した電車を追って、すずが両手を大きく振りながらホームを走るシーン(これをカメラは電車の中から縦位置で捉えている)で、僕は早くも泣きそうになってしまった。

ことほどさようによく書けた脚本なのである。人物の描き分けも、ストーリーの運びも、細部のリアリズムも、全てが台詞の中に生きている。

とりわけ如何にも女の子っぽい会話やエピソードがいっぱい織り込まれていて、これは本当に男性の是枝監督ひとりで書き上げたのかいな?と訝ってしまう。

是枝監督は今回、広瀬すずには台本を渡さず、各シーンを撮る直前に口頭でポイントを説明し、広瀬は他の出演者の台詞にアドリブで答えたという。今まで是枝監督が子役に対して採ってきた演出手法である。

これに広瀬すずが見事に応えた。女優・広瀬すずの血肉の通った素晴らしい浅野すず像が画面の中で輝いている。

画も良い。移ろい行く四季の美しさもある。海もある。江ノ電もある。さらに、人間の作る美しさがある。

道路で、海岸で、家の2階での姉妹の4ショットの立ち位置と動き。それをカメラはどの角度で切り取るのか、とてもよく考えた画作りになっている。

幸が扉が締まりかけたエレベータの中から恋人に手を振る。でも、人目を忍ぶ恋であることもあり、彼女の性格もあって、大きく振れない。手は肩の高さまでも上がっていない。

カメラはその手を画面の下ギリギリのところに捉えている。肌理細かい演出である。

同じように幸がもう一度手を振るシーンがある。最初のシーンと同じように控えめに。――こういうことを重ねて、映画は人物の像を象って行くのである。

そして、すずが同級生の自転車の後ろに乗せてもらって、満開の桜のトンネルを抜けるシーン。

このシーンの後半、カメラはずっと、桜ではなく、桜を見上げながら自転車で坂を下って行くすずの顔を上から捉えているのである。すごいと思った。

さあ、もう、あとは細かいことは書くまい。

見事な脚本、演出とカメラワークで、映画は映像でしか伝えられないやり方で、心の深いところにある襞に触れてくる。登場人物と観客の心の。

大竹しのぶ、風吹ジュン、樹木希林ら、とんでもなく贅沢な共演者がさらに味わいを深めている。

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