映画『龍三と七人の子分たち』
【5月2日特記】 映画『龍三と七人の子分たち』を観てきた。敬愛する北野武監督。僕としては『アウトレイジ』以来5年ぶり。あまりのバイオレンスに辟易して『アウトレイジ ビヨンド』はパスしたのである。
北野武が監督だと知らずに見たら、僕も第一声は「なんじゃこりゃ?」だったかもしれない。しかし、北野武だと言われて観れば、これもまた紛れもない北野武なのである。
『あの夏、いちばん静かな海』や『HANA-BI』なんかとは明らかに違うところにギアが入っている。その2本とか、あるいは『アウトレイジ』シリーズのイメージで観に来た人はがっかりしたかもしれない。
でも、そのがっかりぶりをビートたけしが横目で見てほくそ笑んでいる様が脳裏に浮かぶ。僕が『監督・ばんざい!』の映画評で書いた「どこ吹く風のたけし」である(ただし、この映画は、線としては『監督・ばんざい!』の線ではなく、『菊次郎の夏』の線である)。
ヤクザ映画ではなく元ヤクザ映画である。思うところあって足を洗ったのではない。加齢により引退を余儀なくされた元ヤクザの爺さんたちである。
息子の家に居候、生活保護、入院中、老人ホーム住まい…。皆環境はバラバラだが、今は一様に侘しい元ヤクザの老人たちが集まる。リーダー格の龍三(藤竜也)がオレオレ詐欺に引っかかりそうになったのが発端だ。
新しく組を興すことになり、ヤクザ時代の勲功(殺人や傷害、詐欺などの犯歴数、懲役の合計年数)をポイント化して、その多寡で組長を決めることにする。龍三が組長に、マサ(近藤正臣)が若頭になる。
合計8人の爺さんにそれぞれ得意技があるのが面白い。マック(品川徹)の早打ち拳銃やタカ(吉澤健)のカミソリなんぞはありきたりだが、イチゾウ(樋浦勉)の座頭市さながらの仕込み杖やヒデ(伊藤幸純)の五寸釘なんぞは笑わせてくれる。
極め付きはモキチ(中尾彬)で、何と彼の得意技は便所で待ち伏せして急所を突くことである。現代の洋式便所でそれを再現しようとするシーンが笑える。
笑えるのではあるが、しかし、それぞれに極めて個性的な特技があるというのは、古今東西の集団ヒーローもの映画の鉄則である。結構いろんな映画へのオマージュがある。北野武が座頭市を撮ったことを考えたりすると、意味は膨らんでくる。
パンフを読むと、龍三の刺青を覗き見していた小学生たちに龍三が「ちんこ取っちゃうぞ」と言って脅すのは『愛のコリーダ』へのオマージュであると書いてあって、なるほどと膝を打った。
役所からバスのフリーパスをもらっている老人たちが、バスでカーチェイスをするという発想がおかしい。全員が筋金入りのべらんめえ調なのも、なんか良い感じだ。
ともかく、あちこちで笑える。だが、全体としてはそれほど面白くはないとも言える。間断のないギャグ連発映画ではない。途中少し中だるみして眠くなったりもした。
でも、見終わるとなんだか全体にペーソスがあって捨てられない。記憶を反芻すると、どんどん深みが出てくる気がする。
一番おかしかったのは、音楽は『アウトレイジ』シリーズに引き続いて鈴木慶一が担当しているのだが、今回これだけ馬鹿げたことをやっているのに、その背景でバンドネオンがクソ真面目に哀愁漂いまくりの曲を弾いていたりしたことだ。
結局のところ、僕はこういうチグハグな感じが好きなのである。多分北野武もそうなのだろうし、そういう嗜好性の持ち主が幅広く北野映画を支持するのだと思う。
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