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Wednesday, May 06, 2015

映画『セッション』

【5月6日特記】 映画『セッション』を観てきた。これはもう、何と言うか、べらぼうな映画を観てしまった。音楽が主役の映画である。家にものすごい音響設備があるという人以外は絶対に映画館で観たほうが良い。

冒頭、主人公のアンドリュー(マイルズ・テラー)がドラムスを叩いている。彼がいるのは名門シェイファー音楽院の一室。長い廊下の突き当りの部屋。そこに向かってカメラが寄ってくる。彼はこの学院の一年生。

そこに伝説の教授フレッチャー(J・K・シモンズ)がやってくる。明日の朝6時に教室に来いと言われる。彼が指揮をしている学内のジャズ・バンドに入れてくれると言う。

まず6時というのが嘘で練習は9時からであり、しかもドラムスの主奏者は別にいて、彼は楽譜のページめくりだったが、そこからフレッチャーの目に留まろうとして、アンドリューの、文字通り血のにじむような練習が始まる。

いや、その前にフレッチャーという男の人格は壊れている。音楽に対しては病的な完璧主義者で、僅かな音程やリズムの狂いも許さない。罵詈雑言や暴力も当たり前で、ダメな奴をすぐにクビにしたり、同じ楽器担当を入れて競わせたりする。

その恐怖政治に楽団員はみんな慄いている。

フレッチャーの教え方はシゴキというのを超えている。常軌を逸している。狂気の世界である。だから、その教えに耐え切れず、辞めたり自殺したりする人間が出る。

映画は全編に亘ってほとんどフレッチャーとアンドリューの闘いである。

冒頭のアンドリューのドラムスのシーンの後、最初に鳴る曲はリズムをカウントしてみると5拍子ではないか。そして、バンドのシーンの1曲目で演奏されるのが、この映画のタイトルにもなっている Whiplash という曲で、この曲は7拍子(8分の14拍子)で始まる、これまた変拍子である。

それだけで如何にスリリングか分かるだろう。手と足でリズムを取っていると乗ってくる!

考えてみれば『セッション』という邦題は弱い。Whiplash とは whip で lash する、つまり、鞭で打つことである。それがこの曲のグルーヴ感にも繋がり、映画のストーリーをも象徴している。

フレッチャーの傍若無人な、なぶり殺すような指導が始まり、アンドリューはそれに負けずに、それに応えて、それを乗り越えようとするが、この狂気のシゴキの中で段々判断のバランスがおかしくなってくる。

おかしくなっても血みどろでドラムスを叩く。師匠も弟子もどうかしてしまっている。

そう、これはスポ根式の音楽ドラマなどではない。辛い練習の果てに成功があったというストーリーではない。もっと凄惨なドラマである。

監督のデイミアン・チャゼルは高校時代にドラムスをやっていたという。そりゃそうだろう。こんなドラマはドラマーでなければ書けるはずがない。

個人練習かバンドかという区別はあるが、ほとんどが演奏(ドラムスを叩いている)シーンで、撮り方は限られてくるのだが、音楽と相俟って全く飽きさせない。

各楽器に思い切り寄るか、手許(スティック)を抜くか、顔に迫って表情を映し出すか…。楽器がドラムスだけに真上からの画もきれいだ。ともかくカットの変わりが細かくて早い。

そして、終盤の、あまりに動きが速すぎてほとんど残像しか見えない、演奏するアンドリューと指揮するフレッチャーの間を往復するパンのすごさ!

観ていて面白いなと思ったのは、ドラムスを撮るときに大抵のカメラが抜く、バスドラやハイハットのペダルのアップがなかったこと。

メカ的に面白い画になるのだが、スネアやタムやシンバルの上をスティックが跳ねるのと比べると、動きが遅いのを嫌ったのだろう。

そして、音も動きもすごいが、人間の確執もすごい。

これは「音楽は全てを超える」というような生易しい話ではない。最後にはここまで憎み合った2人なのに、レベルの高い音楽はどちらにとっても等しく心地良いのである。

音楽の深さ、と言うよりも、すさまじさとでもいうべきものが見事に描かれている。

アンドリューの彼女ニコルに扮したメリッサ・ブノワがめちゃくちゃ可愛かった。僕ならあそこまで行ってしまう前に、ドラム・スティックを捨てて彼女を選ぶけどな。ま、そんなことしてるからフレッチャーの音楽の境地には達し得ないのだろうけれど(笑)

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