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Saturday, May 30, 2015

映画『ゼロの未来』

【5月30日特記】 映画『ゼロの未来』を観てきた。僕が愛してやまないテリー・ギリアム監督。映画館で観るのは7本目、テレビ等も入れると8本目の作品である。そして、妻も大好きな監督である。

僕が妻を最初に「面白い娘だな」と思ったのは、彼女が誰かに映画『バロン』の話をしているのが聞こえてきた時である。あの当時この監督はまだそれほど名の知れた存在ではなかった。女性でギリアム監督が好きだというのはなかなかのもんだと思った。

言わばテリー・ギリアムは僕ら夫婦を結びつけた存在なのである。今日も当然2人で観に行った。

しかし、ちょっと油断しているうちに、大阪でも神戸でも朝イチと夜の2回だけの上映になっていた。客の入りが良くないのだろう。

でも、始まった途端にすぐにギリアム・ワールドに吸い込まれてしまう。まずはこの色使い。そう、これはテリー・ギリアムならではの配色である。ゴシックでありながらポップ!

しかし、パンフを読むと、この色彩が実はギリアムが来日した際の体験に基づいていると知って驚くのである。

火災で廃墟化した薄暗い教会に住む主人公が一旦ドアを開けるとものすごくポップでカラフルでエネルギッシュでキッチュな世界が広がっているのは、実はギリアムが東京の西洋化されたホテルの部屋を出て秋葉原に行った時のギャップとショックを体現しているのだそうである。

主人公のコーエン(クリストフ・ヴァルツ)はコンピュータで世界を支配するマンコム社の在宅プログラマ(在宅勤務を認められるようになるまでの経緯も描かれているが)で、エンティティ解析を担当している。

若い男ではない。映画の中での設定が何歳なのか分からないが、演じている俳優は60歳手前である。しかし、彼の暗くて散らかった家に突然ピンクのソファがあったりするところが、これまた面白い。

コーエンが在宅にこだわるのは、人生の目的を教えてくれる電話が自宅にかかってくるのを待っているからである。その彼がマネジメントの指示で、朝から晩まで、何日も延々と数式「ゼロ」を解く作業に従事することになる。

その解析画面はさながらゲームであるが、これが解けそうになる手前でガラガラとブロックが崩れて元の木阿弥になって、何度やってもはかどらない。

その同じ画面で、コーエンは精神科医のセラピーを受ける。そして、彼の行動は複数のカメラで常にマネジメントに監視されている。

その彼を助けるために、まず「女っ気が必要だ」ということで、パーティで会った謎の美女ベインズリー(メラニー・ティエリー)が、続いてマネジメントの息子であるボブ(ルーカス・ヘッジス)が送り込まれる。

暗い教会から電脳世界、南の島、そして主人公への脳内のブラックホールへと場面がころころ変わって、頭がくらくらする。この刺激とスピード感と、それぞれの場面の意味深長さがこの映画の肝である。

家にいるネズミとピザなどの遊びの小場面も面白い。

隣に座っていた客が、終わった途端に「難しかったなあ」と言っていたが、そういう見方はしないほうが良いのではないかな(笑) これはそんなふうに安易な謎解きを求める、底の浅い文明批評などではないのである。まずは映像を脳に焼き付けることだ。

これはまぎれもないエンタテインメントではあるのだけれど、表面を舐めるようなエンタテインメントではなく、僕らの神経の根っ子にまで染み透って、僕らの脳内に入り込んでくるようなタチの悪い(笑)エンタテインメントなのだと僕は思う。

ベインズリーのエロティックさがたまらない。ゼロの訳の解らなさが逆に気を惹く。「答えなんかない」というのが、この映画の答えである。しかし、それはあくまでひとつの答えでしかない。

この映画を観て何を感じるか、一人ひとりの観客が試されているような気がする。そして試されることは決して悪い気がしない。それはワクワクする体験である。

監督は最近隆盛のアメコミ映画のことを「技術的には素晴らしいと思う。でも、映画のアイデア事態は面白くない」と言っている。

一見同じように CG や特撮を駆使しているように見えて、実はこれはそんなアメコミ映画の対極に位置する映画である。映画というのは総合映像芸術であることを思い知らせてくれる、深く、刺激に富んだ作品であった。

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