『麦ふみクーツェ』
【4月25日特記】 昨夜、シアターBRAVA!で『麦ふみクーツェ』を観た。意欲的な企画だった。
まず、音楽劇であること。そして、事前に観客に対して「音の鳴るもの」(何故かサイレンは不可)を持って来るように要請し、劇中の音楽に参加させる試みをやっていること。音楽の楽しさを実感させるのには持って来いの企画である。
劇中、尾藤イサオ扮する“おじいちゃん”が繰り返し言う台詞「この世におよそ打楽器でないものはない」に象徴されるように、前半はまずパーカッシブな要素を前面に出してくる。
音楽にあまり馴染みがなく、ひょっとしたら苦手意識を持っているかもしれない人だったりすると、一番入りやすいのはやはり打楽器だろう。みんなに合わせて叩いているだけでも楽しい。
現に会場に持ち込まれた楽器は圧倒的に打楽器が多い。もちろん、本来的な「楽器」でなくても良い。僕は楽器を用意する暇がなく、劇場の入口で会った会社の人間から小さなタッパウエアを借りて客席に向かった。
タッパウェアの中には、皮膚科でもらう軟膏を入れるような小さなプラスチック容器が入っており、振るとカタカタ鳴る。そんなもので良いのである。
開演前に、前説風に郵便局長(にして、村のおんぼろ楽団の指揮者)役の松尾貴史ら出演者が出てきて、その指導の下で「合奏」の練習をする。松尾の喋りの熟達もあって、もうそこから愉しい。
打楽器が多いのでそんなに外れることはない。ただ、僕の隣席の女性は尺八を持ってきており、前半は横で鳴る不協和音に気持ち悪い思いをしながら観ていたのだが、早くも第二幕ではちゃんとコード・トーン(しかもメロディで)を吹けるようになり、俄に楽しくなった。
途中休憩が15分入るのだが、第二幕の前にまた松尾ほか数人の出演者が出てきて、今度は観客と一緒に声を出す練習をする。出す音は全員が単音であるとはいえ、一応ド・ミ・ソのコーラスである。
で、それを受けて、第二幕はパーカッシブな第一幕に比べて少しくハーモニックになってくる。音楽劇として非常に良い構成だと思った。
ストーリーは、伝説のティンパニストを祖父に持つ“ねこ”という少年が、彼にしか見えない“クーツェ”という存在の麦ふみダンスに導かれながら、“みどりいろ”という名の少女と出会い、そして、彼女の父親であるチェリストを頼って街に出、指揮者を目指す話である。
クーツェは役者ではなくシルエットだけが登場する。それ以外でもセットにシルエットを映しだしていろんなものを巧く表現している。
脚本・演出はウォーリー木下、音楽監督はトクマルシューゴ。主な出演は渡部豪太、皆本麻帆、朴璐美、松尾貴史、尾藤イサオ、小松利昌、植本潤ら。クーツェのタップのシルエットは熊谷和徳である。僕は今回皆本麻帆って結構いいなと思った。
何故サイレンの持ち込みがダメなのかは途中で明らかになる。しかし、蒔いた種を全部刈り取るようなカッチリした台本ではない。けれども、とても愉しい台本である。暖かい気持ちになる。それは少々外れていても合奏が愉しいのと似ているのかもしれない。
キャッチフレーズの通り、これは「つながる音楽劇」である。
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