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Sunday, March 22, 2015

映画『幕が上がる』

【3月22日特記】 映画『幕が上がる』を観てきた。

今まで平田オリザが書いた文章は読んだことがあったが、演劇であれ映画であれ、あるいは戯曲であれ小説であれ、作品を鑑賞するのは今回が初めてである。

別に反感があったわけではない。

ただ、彼が書いた文章を読んだりテレビでの喋りを聞いたりしていると、とても納得感があるのだが、逆にしっかりと論理性が確立しすぎている感があって、芝居のほうは少し面白味に欠けるのではないかと勝手に思っていたのである。

本広克行監督の映画は何本か観ている。良い監督だと思う。ただ、とりわけ僕の好きなタイプというわけでもないこともあって、もう何年も観ていなかった。

ももいろクローバーZというグループは、かなり早い段階からその身体性を活かしたライブが凄い!という評判を耳にしていた。それで、時々彼女たちの歌や映像に触れてみたりもしたのだが、年のせいか、僕にはあまりピンと来なかった。

そういうわけで、この映画はパスするつもりだったのだが、なんだかやたら良い評判が2つ、3つと届いてきたので、やっぱり観に行くことにした。

観に行って良かった。とっても良い映画だった。熱い映画だった。暑苦しいのではなく、熱い映画。胸にたぎる熱い思いをストレートに、でもしっとりと伝えてくる映画。

テーマは演劇である。こんな難しいものをよくやろうと思ったものだと思う。もちろん、過去にもそういう映画はないではなかったが、あまり成功したものはなかったのではないか。

そして、高校演劇の大会を描いたものはこの映画が初めてとのことで、これは良い選択だった。

静岡県の高校の「弱小」演劇部。男女共学であるが、部員は女子のみ。こういうことはよくある。

3年生が引退して、残った3人の2年生の中からさおり(百田夏菜子)が部長に選ばれる。お調子者の同級生・がるる(高城れに)が勝手に言い出して、いい加減な顧問の溝口先生(ムロツヨシ)が認めてしまったのだ。

さおりは元々看板女優のユッコ(玉井詩織)の付き添いで入部してきただけに、自分にやれるのか、何をすれば良いのか自信がない。でも、下級生の明美(佐々木彩夏)らにも慕われ、ともかくさおりの演劇部最終学年が始まる。

そこに、新任の美術教師・吉岡(黒木華)が現れる。なんだか演劇に詳しそう。で、ネットで検索してみたら、学生時代は「学生演劇の女王」とまで言われた存在であったことが判る。さおりたちは彼女に指導を頼む。

吉岡は「芝居をやめたからここで教師をやっている」と気乗りしない感じではあったが、「見学なら」ということで彼女たちの稽古に顔を出す。そして、その吉岡の指導によって、彼女たちはめきめきと腕を上げて行く。

──そういうストーリーである。

ところで、ご存じの通りももクロは5人組である。1人足りない。もうひとりは、事情があって他校の名門演劇部から転校してきた悦子(有安杏果)。最初は演劇部から少し距離を置いていたが、後半さおりに誘われて入部する。

これで5人集合。

お嬢様のユッコと演劇サラブレッドの悦子の間で微妙なさやあてがあったりしながら、物語はゆっくりうねって行く。

ともかく一つひとつの台詞が長いので、彼女たちは大変だったと思う。でも、彼女たちは撮影当日には5人とも完璧に台詞を頭に入れており、誰も現場で台本を開かなかったというから立派なものだ。

で、そういうのがなんか画面から伝わって来るのである。

そして、カメラは女優に長い台詞を言わせておいて、彼女たちの周囲をレールに乗ってゆっくりゆっくり動く。ぐるぐる回ることもある。本当によく動くカメラだった。

さて、ではこの映画のどこがそんなに素晴らしかったかと言えば、それがうまく言えない。が、うまく言えないものをうまく表しているところが凄さの所以なのである。

いみじくも映画の中でも国語教師の滝田(志賀廣太郎)が宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を題材にして同じことを言っている。そして、女優をやめて演出家に専念することになったさおりが、この『銀河鉄道の夜』を戯曲化する。

そういう2重、3重の構造がよくできている。また、この志賀廣太郎が教科書を朗読する声が抜群に良くて、これがまた胸に染みるのである。

主人公のさおりの成長物語ではない。5人のメンバーが5人とも、いろんな経過をたどりながら成長して行く様を同時に描き出しているところが凄いのである。そこにコメディ・リリーフとして投入されたムロツヨシも非常によく効いている。

こまばアゴラ劇場とか、西新宿の高層ビル街とか、そういう僕にとっても若い頃の思い出の場所のシーンが僕を刺激した面もあるだろうけれど、彼女たちの健気さを観ていると、なんか胸が熱くなってきた。

脚本は劇団「ナイロン100℃」「ブルドッキングヘッドロック」の喜安浩平。映画『桐島、部活やめるってよ』を手がけた人である。

目には見えず、でも胸の中でモヤモヤしていた、得も言われぬものを捉えきった、目を瞠るような作品だった。

そして、僕はこの映画で初めてももクロの5人のメンバーの顔を憶えたし、彼女たちが如何に優れたパフォーマであるかということも少しだけ認識することができた。

今度は平田オリザの芝居を劇場で観てみたいものだ。

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