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Saturday, February 07, 2015

映画『深夜食堂』

【2月7日特記】 映画『深夜食堂』を観てきた。原作の漫画は読んだことがないが、テレビドラマは3シリーズ30本を欠かさず観てきた。

監督は3つのテレビ・シリーズで必ずトップとトリを担当してきた松岡錠司(全部で14話を演出している)。

松岡錠司と言えば必ずと言っていいほど“『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』の”という修飾語が付くのだが、僕には『バタアシ金魚』や『きらきらひかる』などの初期の作品の鮮烈な印象が残っている。

脚本は松岡監督自身と、それから松岡と映画『歓喜の歌』で、またこの『深夜食堂』テレビ版でも何度となく組んできた真辺克彦、そして、その真辺の弟子筋に当たる小嶋健作である。

オープニングは映像・音楽ともテレビ版と同じものを使っている。でも、さすがに映画館の音響設備で聴くと我が家のテレビで聴いているより音に広がりがあるなあ、などと思いながら観ていたら、マスター(小林薫)の顔の傷跡がテレビの時よりくっきりしている。

これは何故なのだろう?

そして、テレビでは映らなかった深夜食堂の裏口や二階、そしてマスターの自宅なども舞台として使われており、こんな風にセットが拡大してロケも入ってくるとさすがに映画的な広がりが出てくる。

でも、まあ、それ以外はテレビと同じである。

一番懸念していたのは、テレビでは30分でやっているものを2時間に拡大して間延びしないかということだったが、そこは「ナポリタン」「とろろご飯」「カレーライス」という3部構成にして、それらを無難に繋ぎあわせている。

全く知らない人のために書くと、新宿のどこかにある、深夜0時から朝まで営業しているので「深夜食堂」と呼ばれている“めしや”を舞台にした話である。そこのマスターと、常連客たちと、ふらりとやってきた一見の客が織りなす、ま、乱暴にまとめてしまうと人情ドラマである。

いや、人情ドラマと言うほどベタッとした印象ではない。割合クールで、そこはかとなく悲しい。いや、そこはかとなく悲しいのに、したたかにクールであったり、不思議にハートウォーミングであったりする。

もちろん、原作も知らずテレビも観ていない人でもついて行ける作りにはなっている。しかし、これはやはり圧倒的にテレビドラマのファン向けの作品である。

テレビのレギュラー陣がこれほどまでに次から次から出てくるのは、まさにファンサービスである。この作品のファンは、登場人物の中でこの人が好きという思いをそれぞれに持っており、だからその人が出てくるとそれだけで嬉しい。

僕の場合はそれは新宿ニューアートのストリッパー・マリリン(安藤玉恵)である。

ファンはいろんなことを踏まえてこの作品を観ている。

お茶漬けシスターズ(須藤理彩、小林麻子、吉本菜穂子)は3人とも独身であるということを分かった上で客たちの会話を聞いている。

かすみ(谷村美月)が座っていると、皿に載っているのは“紅天”かな?と思う。

ゲン(山中崇)の姿を見ると、ひょっとして、もうだいぶ飲めるようになったのかな?と心配してみる。

マリリンの後からキミくん(高橋周平)が入ってきた瞬間に、彼がマリリンの彼氏でありマッサージ師であったことを思い出している。

ニラレバ(もしくはレバニラ)を作る手許がアップになった瞬間から、店に野口(光石研)と夏木(篠原ゆき子)の両刑事が来ていることを知っている。

そんな風にいろんなことを反芻しながら観るから、この映画がますます厚みのあるものになってくる(そう思うと、オダギリジョーの役柄がテレビ・シリーズの途中で変わってしまったのが残念でならない)。

また、テレビと違って時間的制約が小さいので、グラスに沈み、やがて浮かんでくる塩漬けの桜の花びらとか、汚く食い残したカレーライスとか、そういうカットをゆったりとインサートしてあるのが非常に効いてくる。

洗濯物を取り込むマスターの自宅で聞こえている落語とか、芸の細かい演出だなあと思う。

みちる(多部未華子)がおばあちゃんからのはがきを読んだ後、カット替わりするのかと思っていたら、そのままずっと引っ張って、気を取り直して丼を並べ始めるところまで撮っていたような、そういう時間の使い方もなんか妙に印象に残った。

ゲストの出演者の中では、高岡早紀と余貴美子の上手さが異様に目立った。多部未華子も良かった。他にも田中裕子や筒井道隆ら豪華ゲストに加えて、ほんのちょい役で向井理がいたりしてびっくりしてしまう。

だが、この映画はやはり常連客たちの味の合わせ技で出来上がっている。上に書いた以外に、松重豊、綾田俊樹、不破万作、宇野祥平らが演ずるヤクザやゲイバーのママやフリーのカメラマンらの息吹がしっかりと伝わって来る。

これはひょっとすると新宿という街の名物郷土料理の寄せ鍋のようなものなのかもしれない。とても深みのある、良い味であった。

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