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Sunday, February 22, 2015

映画『悼む人』

【2月22日特記】 映画『悼む人』を観てきた。

天童荒太という人の小説は読んだことがない。どうも力が入り過ぎのような気がして、却々読む気にならないのである。それでもこの映画を観たのは、堤幸彦が監督をしているからである。

堤幸彦の作品は何本か観ている(そのうちの『包帯クラブ』は同じく天童荒太原作だったということには見終わってから気づいた)が、今まで「これは失敗だった」と思った映画は1本もなかったので。

で、結論から言うと、面白かった。力は入り過ぎではなかった。むしろ、うまく力を削ぎ落としてあった。

自身が映画監督でもある大森寿美男の手がけた脚本が目を瞠る出来なのである。登場人物の多い、入り組んだストーリーだが、それぞれの人物造形がしっかりしており、エピソードの構成も見事に整理できている。

映画の冒頭、旅の風景をバックに、<悼む人>の声が右のスピーカーからぼそぼそ、左のスピーカーからぼそぼそ、ひとりの人間の2つの声が重なりながら移り変わって行く。

個別具体的には違っていても、<悼む人>は常にこんな風に言う:

あなたは誰々に愛され、誰々を愛しました。これこれをして皆に感謝されました。そんなあなたが生きていたことを、私は覚えておきましょう

<悼む人>は坂築静人(高良健吾)。

彼は大好きだった祖父の死をきっかけに人の死に対して強い意識を持つようになり、親友が死んだ時に何もしてやれなかったこと、そして、1年後にはその彼の死を忘れてしまっていたことに気づき、激しく自分を責め始める。

やがて彼は、日本中を野宿しながら、自分とは縁もゆかりもない人の死を悼む旅を始める。自分を責めれば責めるほど、人生は重苦しいものになり、がんじがらめになり、悩みが悩みを深めてしまう。

そのことを静人自身が認識していること、そして、映画がそれをちゃんと描いているところが良かったと思う。

彼が唱えるのはその人の生前の明るい面だけである。自分には人を裁く資格がないと言って、殺人犯にも殺された人にも同じ手順を踏んで同じ儀式をする。

周りから見ると、そんな彼の旅は普通ではない。<悼む人>ではなく<痛い人>と思ってしまうのが世間の凡人である。

その感じ方を体現するキャラクターとして、エロとグロばかり追っている雑誌記者・蒔野(椎名桔平)が登場する。この対照がこの映画の成功の基本だと思う。

蒔野は蒔野で、ただのゲスな中年記者ではなく、母の死をトラウマに抱えており、死期が近い父親とは確執から抜けられない。そのサイド・ストーリーをうまく静人の旅に絡め、そして、静人と母・巡子(大竹しのぶ)を繋ぐ役割も果たしている。

巡子は末期がんであるが、病院を出て家に戻る決心をする。夫の鷹彦(平田満)は対人関係がうまくこなせない不器用な男だが、巡子を深く愛している。娘(静人の妹)の美汐(貫地谷しほり)は、お腹に子を宿した状態で、男と決定的な別れをしてしまう。

そして、静人が旅の途中で出会うのが奈義倖世(石田ゆり子)である。静人が悼んだ甲水朔也(井浦新)の妻で、朔也を殺した張本人でもある。倖世は<悼む人>の行動に興味を覚え、やがて静人に従って一緒に旅をするようになる。

倖世もまた心に大きな傷を負っている。そして、倖世の周りにはいまだに(彼女にしか見えない)朔也の亡霊がつきまとっている。

ストーリーの畳み掛けは非常に巧い。おまけに、出演者がこれまた凄い演技をしている。

高良健吾はまるで死人のように感情を出さないのに、一瞬きつい目になったり優しい目になったりする。石田ゆり子は抱えたものの重さを見事に表現している。椎名桔平の嫌ぁな感じにさえ共感が湧く。そして、大竹しのぶのべらぼうな上手さ!

堤幸彦はいつもの堤幸彦らしいケレン味のあるカメラワークやCG、編集などを抑えて、圧倒的な風景の中に<悼む人>を放り込んで、それを客観的に切り取っている。

とは言え、たまにカメラが人物の周りを回ったり、レンズにフィルタが入っていたりする堤幸彦らしさも時々見える。地面に跳ね返る激しい雨粒や、エンディングの夕陽をバックにしての祈りなど、印象的な画は多い。

終盤の橋の上での静人と倖世のシーンは、一体どこにクレーンを据えてどう動いたのか考えてしまうような、思い切った動きのある構図だった。クライマックスで突然出てきたこの提らしい画は非常にインパクトがあった。

倖世の最後の決断は素直な観客の予想を裏切るものだったが、何と言うか、これがとても良かったと僕は思う。

胸に染みる良い映画であった。

ただし、僕はこの映画を教訓めいた捉え方はしない。僕は生き残ったものは脳天気に楽しめば良いのだと思っている。僕の死は悼んでもらう必要はない。きれいさっぱり忘れてもらって構わない。

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