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Saturday, January 31, 2015

映画『マエストロ!』

【1月31日特記】 映画『マエストロ!』を観てきた。西田敏行は好きではないのだが、監督の小林聖太郎と脚本の奥寺佐渡子に魅かれて。

僕は「親の七光り」的なものが大嫌いで、小林聖太郎についても有名人の息子であると聞いた途端に反感を覚えたのだが、映画『毎日かあさん』とTVシリーズ『深夜食堂2』のうちの3話を観て認識を改めた。

奥寺佐渡子については言うまでもない。最近少し書きすぎている嫌いがあるので心配しているのだが、とにかく「人間が書ける」人である。

さそうあきらの原作漫画については全く知らなかったのだが、この人の作品を原作とする映画は2本見ている。ともに萩生田宏治監督による『神童』と『コドモのコドモ』である。『神童』もクラシック音楽を扱った作品だった。

クラシックに造詣が深い人がこの映画を観たらどう思うのかは分からない。多分僕が観るよりも粗が目立ってしまのだろう。素人である俳優が演奏し、指揮棒を振る真似をするわけだから、多少嘘っぽいところが出ても仕方がない。

しかし、この映画ではどれだけ俳優たちが練習したかが素人の目にも明らかで、嘘っぽいところは極めて少ないはずだ。

こういう展開の話は、アメリカ映画の、特にスポーツ物によくある。

規格外れの選手ばっかりが集まっている、万年最下位のポンコツ・フットボール・チームに、不思議な魅力のあるコーチがやって来て、チームを立て直し、とうとうプレーオフに出場するところまで来た、みたいな話。

この映画はそのチームを交響楽団に、コーチをマエストロに置き換えたものだ。

しかし、これを音楽でやるのは並大抵ではない。スポーツのファイン・プレーは誰の目にも鮮やかに描き切ることができる。しかし、音の素晴らしさを映像でどう表現するのか?

しかも、この映画の中では「音ではない音」などというよく分からないものまで扱っている。

この途轍もなく難しい試みを、しかし、この映画は見事にやってのけている。脱帽である。

実際の演奏は佐渡裕指揮、ベルリン・ドイツ交響楽団が行っているので、音自体の迫力は大したものなのだが、画としても演奏シーンは圧巻である。

個々の役者の練習と演技もあるが、オーケストラ全体を舐めたり、一人の演奏者を抜いたり、カメラワークも素晴らしい。あの揺れる俯瞰は何だろう? クレーンではないな、と思っていたら、ラジコン・ヘリだそうな。

解散した名門オーケストラの再結成。しかし、腕の立つ演奏家はすでに引き抜かれていない。指揮者として現れたのは聞いたこともない、まるで浮浪者みたいなおっさんで、偉そうな上に突拍子もない指導をする。

その指揮者・天道徹三郎(西田敏行)にコンサート・マスターの香坂(松坂桃李)や阿久津(古舘寛治)、島岡(嶋田久作)、谷(濱田マリ)、今泉(池田鉄洋)ら楽団員は反発する。

ホルンの一丁田(斉藤暁)は顔面神経痛を患って以来不安から抜け出せない。ヴァイオリンの村上(大石吾朗)は年のせいですっかり自信を喪失している。オーボエの伊丹(小林且弥)とクラリネットの可部(村杉蝉之介)はずっといがみあっている。

そんな中に一人だけアマチュアの若きフルート奏者あまね(miwa)が加わる。この映画の中ではこの役が大きなアクセントになっている。

最初は脳天気な神戸弁の娘だったが、これがどんどん頭角を現し、ベテランの鈴木(モロ師岡)から第一フルートの座を奪ってしまう。阪神大震災の逸話も織り込まれている。

バラバラのメンバーが最後はまとまってくる。天道が実はただのおっさんではなかったということも明らかになる。スポンサーが降りて中止になりそうだった演奏会も開会にこぎつける。

──最後にはそんな風にきれいにまとまって来ることは最初から予想がついている。にも関わらずこれだけの感動を与えられるのは、ひとえに映画的な構成力の確かさによるものである。

いや、その前に音楽に対する深い研究がある。ただの人間ドラマではなく、音楽ネタが要所にしっかり組み込まれている。だからこそ面白いのである。

この時期の公開になったのは非常に惜しい気がする。11月ぐらいの公開であったなら、いろいろな映画賞でかなり上位に食い込んだのではないだろうか?

ところで、2日連続で映画を観て、両方とも助監督が久万真路であるというのがなんだか不思議である(調べてみたら、この人が助監督にクレジットされている映画を観るのはなんと11本めであった!)。

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