映画『娚の一生』
【12月3日特記】 来年2月公開の映画『娚の一生』を、会社の試写室で観た。
ちょっと先の映画なので、現時点でどこまで情報公開して良いのか分からないが、まあ、ホームページに出ているくらいの範囲で書いてみる。
タイトルは「おとこのいっしょう」と読ませる。
「娚」の訓読みは「めおと」であって、漢字の構造からも判るように、これは一組の女と男=夫婦(めおと)の意味である。
それを「おとこ」と読ませるのはめちゃめちゃだなあと思ったのだが、同名の漫画が原作で、これがまたよく売れているし、賞も獲っているとのこと。
なんとも不思議な映画だった。榮倉奈々や向井理が出ていて、主題歌を JUJU が歌っている割には、悪く言えば“華”がない。
52歳の独身大学教授・海江田醇(豊川悦司)と恋をしないと決めた女・堂園つぐみ(榮倉奈々)の恋物語である。しかも、熟した大人の恋愛なのに、2時間の映画の大部分がプラトニックな関係である。
海江田は、まあ「封建的な」とまでは言わないが、少なくとも古い時代の男である。自信家で迷いがなく、強引で、口が悪く、押しつけがましい。今の時代の優しい男たちの女性に対する行動パタンとは似ても似つかないことを言う。
つぐみは男に振り回され続ける女である。自分をうまく主張できず、不満が残ったまま、でも、男に対する思いを断ち切れない。
親友の岬(安藤サクラ)に言わせると、何でもできてみんなに好かれる女なのに、妻子ある男に振り回されて不幸になることでバランスを取っているとのこと。却々言い得て妙な人物評である。
で、この男女がつぐみの祖母の葬儀をきっかけに出会う。しかも、海江田は祖母の年下の元カレだったようで、鍵をもらっているからと言って勝手に離れに住み着いてしまう(つぐみは既に祖母の染色業を継ぐべくそこに住み始めている)。
そして、一体この2人は好き合っているのか憎み合っているのか判らない感じで前半は展開する。そのうちに海江田が、これまた本気なのか愚弄しているのか判らない感じで、周りにつぐみと結婚するつもりだと言い始める。
監督は僕の大好きな廣木隆一で、画作りはいつもの廣木流の仕上がりである。圧倒的な引き画、そして、奥行きの深い構造、時々やる長回し。すごく地味だけどすごく良い画だ。
人物の切り取り方も印象深く、祭りの夜店の風車をバックに立つ浴衣姿のつぐみ、つぐみが染めて干した反物が風に揺れている中に佇む2人など、いつも通りレイヤーを感じさせる構図だ。
ホームページのトップに載っている写真の、海江田がつぐみの足指を舐めるシーンなどは本当にゾクゾクする。
なんでこんな話を映画にしたんだろ?と思うほど地味な映画で、ひとりずつ登場人物を見ると下手すると共感よりも反感を抱いてしまうのだが、役者も良く、画作りも上手く、どこかで芯を突いた脚本になっていて、見終わったらじんわり染みてくる感じがする。
考えてみれば、そういう不思議が廣木隆一の不思議なのかもしれない。この映画を彼に演出させたのは正解だったのではないかな。
文章を読めば判るように、この映画は僕の勤務先が関係している映画である。だから、単に宣伝のために書いていると思われるかもしれないが、でも、フラットに見て良質の映画だと思う。
正直、「こういう作品って観てくれるのかなあ」という不安がないではない。でも、少なくとも廣木隆一のファンなら十全に楽しめる作品ではないだろうか。
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