映画『近キョリ恋愛』
【11月1日特記】 映画『近キョリ恋愛』を観てきた。
熊澤尚人監督は青春恋愛モノばかりを撮っている監督である。
その手の映画ばかり撮っている監督は往々にして見くびられてしまうのだが、僕が観た『DIVE!!』も『おと・な・り』も『君に届け』も非常に良かった。もっともっと評価されて良い監督だと思う。
そして、今回もコンビを組んでいるまなべゆきこの脚本が却々捨てたもんじゃない。
「ダブル・ツンデレ」の恋愛映画という宣伝文句だが、もう少し正確に言うと、男のほうは高校の英語教師で、確かにカッコイイんだけれど、ちょっとカッコつけ過ぎのぶっきらぼうな喋り方をする櫻井ハルカ(山下智久)。女のほうはその生徒の枢木ゆに(小松菜奈)である。
ゆにのほうは英語以外は常に学年トップ、特に数学は数学オリンピックで優勝するくらいの天才である。だが、論理の筋がはっきりしている数学は得意だが、きっちり線が引けない曖昧な学科である英語は苦手、と言うか、納得が行かない。
表情に乏しく、何があっても顔に出ない。だから、周囲からは何があっても「大丈夫だよね」と突き放されてしまう。男のほうはありがちなイケメン先生だが、そういう機械みたいな女の子という設定がかなりおもしろい。
そして、その枢木を演じているのが、中島哲也監督の『渇き。』で強烈な印象を残した小松菜奈である。これが見事な嵌り役で、前半の無感情・無表情の少女が少しずつ人間らしい女の子らしいキャラに変わって行くところがものすごく魅力的である。
ただ、満員の映画館に来ているのは95%以上が山P目当ての若い女性である。
彼の魅力がどうなのか、僕みたいなおっちゃんにはよく分からない(さすがにちょっと年取ったなあとは思ったが)のだが、終わった瞬間に隣の2人が、「山Pやばかったよね」「うんうん、かなりやばかった」と騒いでいたので、予想を裏切らず魅力的だったのだろう。
思えば今流行の“壁ドン”もあればお姫様ごっこも頭ポンポンもあって、女の子たちはそれぞれ自分をゆにに投影して恋愛追体験をしていたのだろう。
画としては2人の唐突なファースト・キスのシーンが、そのアイデアと言いアングルと言い、白眉であった。こういうのに萌えないわけには行かない(笑)
その2人が高校の先生と生徒であるわけで、これは不倫とは言わないが、まあ道ならぬ恋であることには違いない。そういう状況下でテンポよく進めて行く。
冒頭ちょっとゆにの特異性を語る日常生活のエピソードがあって、その後いきなり櫻井先生がゆにに無理やり補修を始めるところから展開するのは、唐突な入り方ではあるが、逆に勝負早くて良い。
ゆにがスカートの裾を握る癖とか、櫻井の亡くなった父親が嘘つきだった話とか、そういう言わば「蒔いた種」をどっかで刈り取るんだろうなと思ってみていたら、あまり大仕掛にせずにきれいに刈り取って行く。とても心地良い。
留学の決まったゆにと櫻井先生の空港での劇的なシーンとか、アメリカでのサプライジングな展開とか、そういうのを予想したのだが、意外に地に足の着いた筋運びで、良いラストだった。
監督は「原作は絶対にリスペクトしたい」と言っている。ただ、全10巻のコミックスを2時間の映画にするためには刈り込みと繋ぎ込みが必要である。同じ高校の教師であり、ゆにのいとこであり保護者でもある明智(新井浩文)はそのために作ったオリジナルのキャラクターなのだそうだ。
櫻井の幼なじみで同僚教師の滝沢を演じた水川あさみもかなり良くて、前作『太陽の坐る場所』が冴えなかっただけに、演出が違うとこうも輝きが違うものかと感心した次第である。
今回も良質の恋愛映画だった。
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