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Monday, November 24, 2014

映画『0.5ミリ』

【11月24日特記】 映画『0.5ミリ』を観てきた。

安藤桃子(当時はモモ子)の『カケラ』は、この10年間で僕が見たいろんな映画監督のデビュー作の中でも飛び抜けて素晴らしい、持って生まれた才能の豊かさと、海外で学んだ基礎の確かさを感じさせる作品だった。

だから早く次の作品も見たくてうずうずしていた。しかし、映画の続報はなく、その代わりに彼女の小説が出版された。それが『0.5ミリ』だった。

僕はその初版本を買って読み、悪くないと思った。

しかし、読んだとは言え、例によって今となっては、どんな本だったのかほとんど思い出せない(笑) 介護ヘルパーの主人公が失職して家も金もなくなり、いろんな老人の家に押しかけヘルパーとなって渡り歩く、ってことくらいか。

そして、そうこうするうちに、今度は安藤桃子がこれを自分で映画化するというニュースが入ってきた。それがこの作品である。いつの間にか『カケラ』から4年半の歳月が流れていた。

ところで、そんな地味な筋の映画で、なんでこんなに大入りになるんだろう?(僕のような『カケラ』以来の監督のファンという客なんかほとんどいないだろうに)

テアトル梅田という小さな小屋だったのだが、最後の回まで売り切れで、立ち見が出ている。かなり高齢の女性が「立ち見で良いから」とチケットを求めたが、係員は「3時間を超える長い作品なので立ち見はお勧めできません」と他日に誘導していた。

僕にとっては園子温の『愛のむきだし』以来となる、非常識な長さの映画である。ちなみに『愛のむきだし』は4時間あったが(笑)

こういう試みは確信がないと踏み切れない類のものだろう。でも、そう、時間をかけないと描けないものだってあるのである。

「それにしても、こんなに熾烈な話だったかな」というのが僕の感想である。もちろん例によって映画を見終わってもやはり本の記憶は甦らないのだが(笑)

映画オリジナルの部分もあったのかもしれないが、小説ではサワの偏見のない融通無碍なところが印象に残ったが、映像にすると一気にメッセージ性が高まった気がする。

本来文章のほうが理屈っぽくなりがちな分メッセージ性も高まるはずなのに、何故だろう?

と言っても決して理屈っぽい映画ではない。出てくる人物が誰も彼も見事に人間らしいのは、それぞれの登場人物(老人たちだけではない)が抱えているものをしっかり描けているからだろう。

中でも津川雅彦の7分にも及ぶワンショット、ワンカットの長台詞は圧倒的な芝居だった。

あちこちで書かれていることなので詳しくは書かないが、この映画のスタッフ/キャストには“安藤一族”がこぞって参加している。

僕はそういう家族主義は大っ嫌いで、それではまるでさだまさしではないかと唾棄したくなるのだが、しかし、この映画では紛れもなく安藤桃子にしか撮れない安藤サクラが撮れている。

僕はこれまで安藤サクラ出演の9本の映画を観てきたが、実にこの映画で初めて、彼女のことを少し可愛いと思った。

安藤サクラが扮するサワは、老人に対する偏見と屈託のない態度と、自分を食わせてくれる人物を嗅ぎ分ける能力で、最初は“押しかけ”という形でありながら、最後は老人たちの心に入り込んで行く。

老人たちは現金であったり、コートであったり、車であったり、自分の肉声を録音したカセットであったり、必ず何かをサワに残してくれる。

どの人生も過酷で、そんなに幸せには見えない。けれど、なんと言うか、サワにはそういう人間の尊厳が見えている気がする。そういう一見ただの厚かましい女のようでいて、とても魅力的な女性を安藤サクラは余すところなく演じている。

小説の時点から姉が妹にあて書きしたらしいが、確かにこの役は彼女にしかできないだろうなと思う。

パンフに川本三郎が、サワを見ていると映画『バグダッド・カフェ』で砂漠の中の冴えないモーテルにどこからともなく現れたドイツ女性・ヤスミンを思い出すという記述があったが、その感じ方は凄いと思った。

そう思って観ると、この映画はまた違って見えてくるのかもしれない。

長いだけの値打ちのある映画だった。

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