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Monday, October 13, 2014

『トト・ザ・ヒーロー』

【10月13日特記】 WOWOW から録画しておいた映画『トト・ザ・ヒーロー』を観た。1991年、ベルギー=仏=独の合作。監督はジャコ・ヴァン・ドルマル。

録画で観た映画やドラマについて全部書いていると切りがないので滅多に書かないのだが、これはすこぶる面白かったので書いてみる。

もう随分古い作品なので、ネット上のあちこちにいろんな情報が書いてあるだろうから、僕もネタバレを気にせずに書く。これからご覧になるつもりの方は、ここで読み終えたほうが良いかもしれない。

舞台はフランスである。主人公は老人トマ。このトマの、老人ホームにいる現在と、少年時代の回想、そして時たま老人の妄想が入り乱れて描かれる。

トマは生まれて間もなく、産院の火事のドサクサに親に取り違えられてしまう。この時の記憶があるということが既に妄想くさいのだが、トマは少年時代から今に至るまで、ずっとそう思い込んで生きてきた。

取り違えられた相手は、向いの家に住むアルフレッド・カントである。カント家は金満家である。トマはずっと自分が受け継ぐべきものをアルフレッドに奪われたと思い込んでいる。

トマは周りの少年たちに「チキン・スープ」という仇名を付けられていじめられている。トマには可愛くて大胆な姉とダウン症の弟がいる。

トマは姉に恋する。結婚まで夢見る。ところが、姉はこともあろうにアルフレッドと親しくなる。トマは嫉妬する。

トマはテレビ映画の主人公の探偵トトにあこがれていて、自分もいつかは名探偵になって両親を喜ばせたいと思う。

トマの父は飛行機乗りだ。休みの日にはピアノを弾いて軽快な歌を聴かせてくれる。姉のトランペットがそこに加わる。

しかし、ある日、トマの父は向かいのカント氏に頼まれてイギリス製ジャムの輸送の仕事を受けるが、嵐の中で遭難し、恐らく死亡したと思われる。

この設定、そして筋運びの奇妙さ、描かれる雰囲気の不思議さ、独特のテンポ、時として画とアンバランスな感じもする音楽の使い方、どれをとってもユニークである。

この後、姉は向かいの家に放火して爆音とともに姿を消す(死体が見つかったかどうかは描かれない)。何年か後、トマは姉にそっくりの女を見つけて近寄る。結局姉本人とは別人の、エヴリーヌという人妻だったが、いつしか2人は恋に堕ちる。

ところがエヴリーヌは実はアルフレッドの妻であったというところがすごい。ともにトマの姉のイメージを追い続けてきたということだ。

この映画はそんな風に、あちこちでいろんなものが繋がってくる。計算し尽くされた見事な脚本である。

冒頭の「アルフレッドを殺す」というトマの独白とともに描かれたのが、実は最後には自分の死期の映像だったと判る。

父親は飛行機に決して近寄らせてくれなかったが、焼かれて灰になってから初めて飛行機に乗せてもらう。散灰である。そして、灰になってもまだ語り続けている。それもすごい。

劇中に使われるやたら明るい曲がいつまでも脳裏を離れない。父の死後、お金に困った母親が帽子の中に隠して生肉を万引きしようとするシーンなど、奇想天外な画がふんだんに出て来る。

ダウン症の弟が言う極めて下らないジョークをトマが何年後かにエヴリーヌに言う。姉が言った「どっちの手が好き?」と同じ台詞をエヴリーヌも言う。ピアノを弾いて歌う父親の幻想が前方のトラックの荷台に甦る。──そこかしこで話は繋がっている。

死ぬ直前にトマは今や命を狙われているアルフレッドに再会し、アルフレッドの手引で老いたエヴリーヌとも再会する。

ある意味妄想の人生だが、その妄想を貫いた人生でもあり、ある意味気高く、ある意味苛烈である。

あまりの面白さに、これは評価の高かった映画に違いないと思って調べてみたら、やっぱりキネ旬ではその年の第8位。いや、それよりもカンヌ映画祭でカメラ・ドールを受賞している。

面白いはずである。

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