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Saturday, September 20, 2014

映画『舞妓はレディ』

9月20日特記】 映画『舞妓はレディ』を観てきた。

この映画の一番の問題点はタイトルが My Fair Lady のもじりであることが却々分からないことである。そして、それよりも問題なのは、僕が My Fair Lady を観ていないということだ(ま、観ていたとしてもどうせすぐに忘れてしまうので、同じと言えば同じなのだがw)。

だからと言って、映画を観る前に My Fair Lady を DVD で観ておくほどの気力もなく、そうなってくると、「もういいか。別に僕の観る映画じゃないということか」というムードになってしまう。

そもそも周防正行監督は、『シコふんじゃった。』『Shall we ダンス?』『それでもボクはやってない』の3本は熱狂して観たのだが、それ以降は少し僕の好みから外れてきた気がして、結局観ていない。

そういうわけで今回もパスしようかなと思っていたのだが、ネット上を見ると全く悪い評に当たらない。それなら、ということで観に行ったのだが、いやあ、これはやられた。素直に面白かった。素直に楽しかった。素直に良い映画だった。

最初は淡々と進むのだが、映画の中で最初に歌い出すシーンで一気に楽しくなる。なにしろ舞妓とジャズと津軽弁と薩摩弁が一緒になっているのだから(笑)

この映画は舞妓ミュージカルと言われているが、全編歌いっぱなし踊りっぱなしではなく、要所要所に歌と踊りが出て来る。それが見事に効いているのである。

音楽のセンスが極めて高い。それぞれの役者の歌がそんなに巧いわけではない。が、周防義和が手がけた楽曲が素晴らしい。和旋律あり、ブルー・ノートあり、ジャズの和音あり、ラテンのリズムありの見事な展開である。

単純なメロディを複雑なテンション・コードが支えるのではなく、いろいろな旋法を持ち込んでいるので、メロディ自体が意外性に飛んだ心地よさをもたらす。

音楽の楽しさだけではない。いかにもオープンセットという感じのセットがなんとなく設定にマッチしている。上七軒ならぬ下八軒という地名が良いではないか(笑) 書き割りを意識した飛び出す絵本のようなセットもなんとも愛らしい。

そして、他にもまだ非常にセンスの良い遊びがある。

冒頭の「お化け」の出し物で芸妓の里春(草刈民代)が緋牡丹のお竜に扮しているのが、その後のシーンからお茶屋の女将役で富司純子が登場するための、言わば序詞になっている。

それから、芸事の先生役で徳井優と田口浩正が連続して出てきて、これは誰もが『Shall we ダンス?』を思い出しただろう。あの時、役所広司と一緒に必死で社交ダンスを習った2人が、今回は教える側で出て来るところがなんとも楽しい。

My Fair Lady 以外にもこれだけいろいろなものを踏まえたシーンが出て来るのだから、恐らく My Fair Lady を意識した演出はそこかしこにあったのだろう。My Fair Lady を観ていたらどれだけ楽しかっただろうと、ちょっと悔しい思いをした。

さて、周辺のことばかり先に述べてしまったが、言うまでもなく、主人公の春子を演じた上白石萌音がとても良いのである。

実は彼女が東宝シンデレラ・オーディションに合格した年に、僕はたまたま東宝芸能の方からその年の合格者の写真を印刷したクリアファイルをもらった。苗字が珍しかったのと、同時に合格した妹の白石萌歌も一緒に載っていたのでよく憶えている。

今回予告編を見て、あの時の写真より随分不細工になったなと思ったのだが、これは演出で、最初の青森から出てきた垢抜けない田舎者から、芸事の稽古を積んでどんどん洗練されて行くところを、まるで魔法みたいに見せてもらった。

歌では張りと伸びを兼ね備えた透明感のある声でしっかりと聴かせてくれるし、踊りにしても、しなかやな日舞から洋舞っぽい振り付けになった途端に抜群のキレを見せてくれる。

そして驚いたのはストーリー構成で、彼女が舞妓になる上で最大の難関は所作でも舞踊でもなく、京ことばであったという設定である。

これは My Fair Lady の主人公が強烈な Cockney English を矯正されるというエピソードを踏まえている(映画もミュージカルも観ていないけれど、このことは中学か高校時代の英語の教科書に載っていたのを憶えていた)。

この映画では春子の津軽・薩摩混合の方言を矯正するために、日本全国の方言を操る言語学者・京野(長谷川勝己)が登場するのだが、この設定がこの作品を見事な知的エンターテインメントにしている。

春子の京都弁がだんだん“らしく”なっていくとところが本当に上手に演じられていた。方言指導はかなり頑張っていて、関西以外の出身の役者もなんとか気にならない程度のアクセントで喋っている。

楽曲も(何箇所か裏返っていて気になるところはあったが)詞を京都出身の種ともこが担当することによって、概ね京都のアクセントを活かした曲作りになっており、とても楽しい。

成長物語というのが良い。いや、成長物語なら何でも楽しいというものではない。ざらにある成長物語を凡庸なものにしないのが監督と脚本の腕なのだろう。これはいつの間にか主人公に感情移入して、一緒に泣き、一緒に喜び、最後に希望の湧く作品になっている。

日本の古都の舞妓と西洋のミュージカルを合体させるという発想が見事に当たった感がある。

AKB48 のふたりがラップを歌って踊るシーンなど、編集で泣く泣く落としたシーンも多いというので、ディレクターズ・カットの DVD が出たら買ってしまうかもしれないなと思う。

そして、最後にもうひとことだけ。

富司純子の若いころを演じた大原櫻子の歌唱がハッとするほど素晴らしかった。何と言っても声質が魅力的だ。張りがあると同時にメリハリのある歌い方ができ、弾けるようなリズム感がある。今後に注目したい。

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