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Saturday, September 06, 2014

映画『南風』

【9月6日特記】 映画『南風』を観てきた。「みなみかぜ」ではなく「なんぷう」。

監督は萩生田宏治。僕が最初に観たのは2005年公開の『帰郷』だった。高崎映画祭の若手監督グランプリを獲ったが、あまり注目はされなかった。

でも、僕はものすごく良い映画だと思った。当時僕は「重い重い映画」と書いている。「キネマ旬報ベスト10に入る期待あり」とも書いている(結果は48位だった)。

主演は西島秀俊。すでに映画では主演級だったが、テレビには出ておらず、まだ知名度はほとんどなかった。片岡礼子が共演していた。

その次が2007年の『神童』。「前作の『帰郷』が素晴らしかったので、この映画も是非とも観ようと思った」と書いている。主演は成海璃子と松山ケンイチ。そして、ここにも西島秀俊が出ていた。

僕は「この映画、そんなに面白くはないけど、とても良い映画だよ」と書き残している。

そして、翌年『コドモのコドモ』を観た。なんと11歳の少女が同級生とセックスして妊娠・出産する話である。

これも良い映画であった。僕は「しかし、この映画はまさにそういう固定観念から飛び立つ材料なのである。図式的な考え方から解き放たれる契機なのである」と書いている。

とても考えさせる監督なのである。画も台詞も素晴らしい映画を撮る監督なのである。

そして、今回の『南風』。主演は黒川芽以である。

黒川芽以と言えば、『グミ・チョコレート・パイン』と『ボーイズ・オン・ザ・ラン』が忘れられない。

どちらも主人公をこっぴどく振る役である。彼女のつれない仕打ちによって、どちらの映画でも純情な青少年が、二度と立ち直れない奈落の底に叩き落とされることになる。

昔の黒川芽以は今より少しぽっちゃりしていて、この娘のどこがそんなにいいんだろ?と思う反面、なんだか裏腹にそそられる部分がある。そういう娘っているでしょう? 所謂「男好きのする娘」。

そして、一番最近観た『ぼくたちの家族』では、これまた真面目な長男(妻夫木聡)にプレッシャーをかける、非常に小憎たらしい嫁を演じている。

その黒川が、この映画では雑誌の編集者・藍子(26歳)に扮しているのだが、これがなんと冒頭から振られる。21歳の女に寝取られてしまうのである。おまけに希望の職場であったファッション雑誌から外されて単発の企画もの担当になる。

その仕事で彼女は台湾に行く。自転車で台湾を4分の1周し、最後の日月潭という所で、伝説のサイクリスト・植村豪(郭智博)をインタビューする企画である。

ところが、台湾で頼りにしていた先輩は現在妊娠中でガイド役は務められない。

困り果てていたところ、レンタル自転車屋の店番の少女・トントン(テレサ・チー)が「私がガイドをやる」と無理やり押しかけてくる。まだ16歳なのに21歳と偽って。

彼女はただモデルのオーディションを受けるために日月潭に行きたいだけだった。

そして2人は自転車で出発する。ちょっとした事件があって、途中からイケメンのサイクリスト・ユウ(黄河)が加わり、目的地に着く前に植村とも合流する。

サイクリング・ロード・ムービーである。大事件は起こらない。けれど、よく書けている。よく撮れている。

何と言っても画がすごい。撮影は長田勇市である。台湾というロケ地を最大限に活かしている。引きの画が特に力強く美しい。「ドラマは何を措いても脚本だ」と言う人がいるが、僕は「映画は画作りだ」と思う。

何もきれいな風景や雄大な自然をカメラに納めれば良いというものではない。人の暮らしのどのシーンをどの角度からどのサイズで切り取るか──そのセンスを問われるのが映画だと思う。そこに現れるのは監督とカメラマンの人生観と生活感である。

台詞は当然、日本人は日本語、台湾人は中国語である。その狭間を、お互いの片言の英語が細々と繋いでいるが、基本的に言葉は通じない。

そういう手足を縛ったような状態でのコミュニケーションを描こうという狙いがまず面白いが、荻田美加による脚本はその狙いを正確に掴んでいてよく書けている。特に藍子とトントンの、お互いに通じないなじりあいには笑えてくる。

先ほども書いたように、びっくりするような大事件は起こらない。でも、とても良い話と見事な画作りで、意外に胸の奥深いところまで染みてくる映画だった。

人物も風物も非常に色鮮やかに捉えており、自転車の疾走感もきれいに表現されている。良いロード・ムービーだったのではないかな。

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