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Sunday, September 28, 2014

映画『がじまる食堂の恋』

【9月28日特記】 映画『がじまる食堂の恋』を見てきた。精霊が宿ると言われる“ガジュマルの木”がある沖縄県名護市の、言わば町おこし企画映画である。

で、その企画コンペに勝って監督を務めたのが大谷健太郎である。

僕は『約三十の嘘』と『NANA』の2本ですっかり大谷健太郎監督のファンになったのだが、その後がどうもパッとしない。僕の眼から見るとずっと悪くない映画を作り続けているのだけれど、動員も評価も得られていない。

しかし、それにしても今日のこの映画のように、梅田でも三宮でも上映しておらず、HAT神戸で1日2回だけの上映というのはまことに気の毒である。

客が来ないから上映館と回数が減るのか、上映の機会が少ないから評判にならないのかは微妙で、まさに鶏と卵であるが、今回の観客はわずか5人であった。その5人のうちのひとりとして、責任をもって評価してあげなければならないと思う。

そういう訳で結論から先に言えば、この映画はとてもとても素晴らしいラブ・ストーリーだった。そう大人のラブ・ストーリー。

舞台は名護。主人公の平良みずほ(波瑠)は死んだおばあの跡を継いで「がじまる食堂」をひとりで切り盛りしている。

ある日バス停に立っていると、タクシーの中から呼びかける男がいる。男はタクシーを待たせたまま降りてみずほの側に来て、「荷物を盗まれてお金が一銭もないので貸してほしい」と言う。

みずほが貸せないと言うと、「タクシーの運転手は僕らの姿を見て、あなたを僕の友だちだと思っているはず。あなたにお金を貸してもらえないと僕は走って逃げるしかない。そうすると運転手は友だちのあなたに払えと言うだろう。そうなるとお金は返って来ない。僕に貸すのとどっちが良いか」などと変な理屈を言う。

結局その図々しさに押されて、みずほは男を定休日のがじまる食堂に連れてくる。男は城島隼人(小柳友)。東京でIT関連の会社を経営している。お金はすぐに会社から現金書留で送ってもらうので、それまでここに泊めてほしいと言う。

一方、みずほが自宅に帰ると、5年も離れていた元カレの島袋翔太(桜田通)が待っている。東京で絵の勉強をしていた翔太は、個展を開くことになったので、ここで何枚か絵を描きたい、ついては暫く泊めてくれと言う。

困惑したみずほは咄嗟に家を出て食堂に行く。食堂で話を聞いた隼人は、いろいろ質問してみずほを苛立たせたくせに、最後は「良かったら僕、あなたの恋人になりましょうか?」と言い出す。

隼人の機転で、翔太は一晩で出て行くことになる。そして、翌日、翔太ががじまる食堂に掲示した絵のモデル募集を見て、東京から旅行で来ていた菅田莉子(竹富聖花)が応募してくる。

ここから、この4人の登場人物の、少し奇妙な四角関係が始まる。

みずほはちょっと面倒臭い系の女の子である。僕はこういう女の子を好きにはならないだろうと思う。でも、そんな“タイプではない”女の子にこれほど感情移入できるのは、やはり脚本と監督の腕だと思う。

脚本を書いているのはフジテレビヤングシナリオ大賞受賞者で、これまでほとんどのキャリアをテレビドラマで積んできた永田優子である。映画は『書道ガールズ』くらいしか経験がないのだが、今回のこの脚本がすごく良い。

映画が終わりの方まで伏せておこうとした設定を僕は瞬時にして見抜いてしまったので、そこから興味が失せても仕方のないところだが、そんなことは全く関係がない。それは4人のキャラが本当によく描かれているからである。

引っ込み思案と変なプライドが同居するみずほ。自分本位に自由に行動する翔太。ウルトラ積極的な莉子。いつも余裕を持って待ちの姿勢でいる隼人。

僕が多分恋に堕ちないみずほと、僕とは全くタイプの違う隼人。でも、映画の早い段階から、ああ、この2人がうまく行ったら良いのになあ、と思う。そう思わせる素敵な本でありカメラである。とても巧いと思う。

みずほの話を聞きながらすぐに「分かります」という隼人に、「そんなに簡単に分からないでください」と怒るみずほ。

終盤、逃げ出した隼人を追って走るみずほ。「僕は今とても惨めな気持ちなのでひとりにしてくれ」という隼人に対して、「あなたのように他人のことが分からない私に、その惨めな気持ちをぶちまけて楽になって下さい」というみずほ。

こういう台詞の切り返しは絶品である。

翔太とのことで泣きだして隼人に凭れ掛かるみずほ。隼人はみずほを抱き寄せようとして、でも、途中で手を、中途半端な位置で止めてしまう。こういう演出が全般に冴え渡っている。

ガジュマルの老木に手を当てて祈るみずほ。その手の甲に重なる男の手。──とてもきれいなシーンである。

カットは長めで、俳優の良い演技をたっぷり引き出している。

そんなにたくさん観ているわけではないが、波瑠はとても好きな女優だ。

映画では『みなさん、さようなら』での濱田岳の同級生役が忘れられない。テレビでは、端役だったけれど、合津直枝がNHKで撮った『書店員ミチルの身の上話』での戸田恵梨香の妹役が印象深かった。

今回も言い淀むさま、言い募るさま、目を伏せるさま、目を瞠るさま──ひとつひとつの表情が信じられないくらい良い。そして小柳友も良い芝居をしている。

このラブ・ストーリーは、多分ある程度大人になってからでないと解らないだろう。そう、恋が成就するためには適切な組合せであることが必要なのである。好きだ、というだけではうまく行かないカップルがあるのである。

中高生では、恐らくその辺りのことが理解できない。でも、今この映画を観るのも良いかもしれない。今は案の定「えー、全然分かんなーい」などと言っていたのが、10年後にきっと解る日が来るだろう。

上質のラブ・ストーリーだった。98分の小品だが、大谷健太郎監督の新たな代表作になったのではないだろうか。

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Comments

うわ~素敵な映画評ですね。
この映画が観たくなったし、恋の良さというのかな…
ちょっと恋をしたくなりました。

分かったり分からなかったり
分かったふりをしたり分からないふりをしたり。

逃げたり、追いかけたり。

組み合わせの妙。

最後のくだり、納得です。

恋か。
もうそんな年齢じゃないですけど(笑)。

Posted by: リリカ | Tuesday, September 30, 2014 at 06:52

> リリカさん

お久しぶりです。で、お褒めに預かり恐縮です。

年取ってからできる恋もあるんじゃないですか? とか言いながら、僕も映画でそれを追体験するのがもっぱらですが(笑)

Posted by: yama_eigh | Tuesday, September 30, 2014 at 21:54

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Tracked on Monday, September 29, 2014 at 09:11

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