映画『TOKYO TRIBE』
【8月30日特記】 映画『TOKYO TRIBE』を観てきた。園子温監督。
いやぁ、参った。これは驚いた。全編ヒップホップである。ラップ・ミュージカルである。
全ての台詞がラップだというわけではなく地の台詞でストーリーを進めるところもあるが、ヒップホップのバック・トラックは初めから終わりまで途切れることなく鳴りっ放し。
そのことによって、冒頭からエンディングまで豪快にヒップホップの乗りが維持されるのである。
原作は有名な漫画らしい(例によって僕は知らないw)のだが、全編ラップ・ミュージカルにしようというのは監督のアイデアらしい。観ていて(聴いていて)勝手に自分の膝が動き出す映画というのはそうそうあるものではない。
映画は冒頭からそのラップのリズムに乗って怒涛の長廻しである。染谷将太が扮する MC SHOW が出てきて歌い、語るのであるが、彼が映画全体の MC として狂言回しの役割を務めて行く。
この映画には、YouTube のオーディションで選ばれた本職のラッパーがたくさん出演しているが、染谷だけではなく、素人のラップはややもたっとして重い感じがある。だが、全編を途切れずに貫いているバック・トラックがド迫力の本物なので、ラップのグルーヴ感は強烈に観客に刻み込まれる。
そして、言うまでもないが、本職のラッパーたちのラップは本当に変化に富んでいてワクワクする。こんな言い方をすると申し訳ないが、『サイタマノラッパー』が如何に田舎者のラップだったかを改めて思い知るのである。
そして、ふんだんに出て来る擬斗シーンが、速さも複雑さも尋常ではないだけではなく、よくまあこんなに合わせたなあというくらいヒップホップのサウンドに調和しているのである。
時代は多分近未来。場所は TOKYO。この時代の TOKYO の街は、地区ごとに 23 の TRIBE(族)が実質支配している。
映画に出て来るのはそのうちの7つ──ブクロWU-RONZ、シンヂュクHANDS、歌舞伎町 GIRAGIRA Girls、シヴヤSARU、高円寺卍ジャック、練マザファッカー、Musashino SARU である。
で、これらの TRIBE が拮抗して割拠していたところで、突然ブクロが東京制圧を目論んで他の縄張りを侵し始め、それに対抗するために Musashino を中心に他の TRIBE が結集してブクロと対決するという話である。
要するに族同士の抗争を描いた映画で、大部分が戦うシーンで、あまり筋らしい筋もない。
映画が終わって出てきたカップルが、話している内容とは裏腹に、興奮気味に楽しそうに語っているのが聞こえてきた。
「全然分からんかったわw」
「俺も人生で見た映画の中で3番目ぐらいに分からんかったw」
「原作はどうやの?」
「原作はもっと筋あるで。けど、映画はめちゃくちゃな迫力あったなあ」
「うんうん」
そうなのである。このやみくもなエネルギーの横溢は何だろう。長廻しで始まり、アクションとラップが延々と続く中、何度も何度も長廻しが出てきて、最後もまた見事にデザインされた長廻しで終わる。まさに仰天のカメラワークである。
見終わった時のこの圧倒的なカタルシスは何なんだろう!と驚いてしまう。これこそが音楽と映像とストーリーの三位一体がなせる技ではないだろうか。
ここで描かれる TOKYO の街はとてもきらびやかな色彩に溢れ、同時にゴミゴミしている。『ブレードランナー』以降、近未来都市の猥雑さをそんな風にして描いた映画はたくさんあるが、こんな風に音でもその猥雑さを表し得た映画はなかったのではないだろうか。
良い役者、と言うか、見事に嵌り役の役者がいっぱい出ている。
ブクロのリーダーに鈴木亮平。対立する Musashino のリーダーに本職のラッパーでこれが初演技となった YOUNG DAIS。Musashino のメンバーに石田卓也、佐藤隆太、市川由衣。シンヂュクのリーダーに大東駿介。
そして、ブクロの上に立って TOKYO を支配しているヤクザの親分に竹内力が扮しているのだが、その妻が叶美香、息子が窪塚洋介、娘が中川翔子という豪華さ。そして、竹内のさらに上にいるアジア闇社会の大物に園映画の常連でんでんが扮している。
竹内力が中年太りしてもなお体が動くところを見せ、窪塚は単に弱くて卑怯な奴かと思ったら結局強くて、この辺りはまさに怪優だなあと舌を巻く。
しょこたんは乱闘シーンになると、急に『キル・ビル』に出てきたのとそっくりな黄色のジャージに着替えてきてヌンチャクを振り回す。「なんだよ、キル・ビルか?」と言われて「違うよ、ブルース様だよ」と返す啖呵にしびれてしまった(笑)
そして、何よりも眼を惹いたのは、この抗争に巻き込まれて拉致されるミステリアスな少女・スンミの役で出ていた清野菜名である。
吉瀬美智子ばりの綺麗な顔をして、ミニスカートでパンツ丸見えで見事なハイキックやバク転を披露してくれる。おまけにおっぱいまで露出する。表情も良い。非常に強いものを感じる。
あの名作『愛のむきだし』の満島ひかりもパンツは丸見えだったけど、おっぱいまでは見せてくれなかったな、と思って気がついだのだが、そう言えばこの映画は今までの園作品で言えば『愛のむきだし』に近いと言うか、『愛のむきだし』の線なのである。
激烈に猥雑で乱暴で、ちょっとチープなところまで同じだが、同じチープでもあの頃よりはいろんなものがグレード・アップしている。
こんなに堪能した映画は久しぶりである。映画は総合芸術であることを改めて思い知らされた、と言っても良いのだが、「総合芸術」という発想からは却々ヒップホップなんぞにはたどり着かない。この映画の凄さはそこだと思った。
かと思うと、ラストに園子温らしい下世話なオチがついていて、結構笑えたりもする。いやぁ、本当に参った。
Comments
お久しぶりです。
最近、鈴木亮平くんにちょっとハマって、この映画を観ました。
ふだん観る映画と全然ジャンルが違っていて
ネットでの評判も散々だったので、どうかなと思っていたのですが
思っていたよりも全然悪くなかったです。
…というか、こういう描き方もアリなのかと驚きというか
そうだな…新たな可能性を感じる作品でした。
私も原作を知らないのですが、ラップに乗せてあらすじを観客につかませてしまう手法が斬新でした。
作り手は楽しかっただろうなぁ…と推測。
亮平くんは知的な役のほうが好きですけど、まあ悪くなかったです(笑)。
Posted by: リリカ | Saturday, August 01, 2015 16:05
> リリカさん
あ、そうなんですか、ネットでの評判は散々だったんですか。僕の周りではこの年のベストに推す人もいたんですけどね。
僕はその年の「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい邦画10本」に選びはしませんでしたが、大変好きな、大変高く評価している作品です。
Posted by: yama_eigh | Saturday, August 01, 2015 21:22