映画『思い出のマーニー』
【7月26日特記】 映画『思い出のマーニー』を観てきた。
僕はあまりスタジオジブリの作品を観ない。が、去年は『風立ちぬ』を観て、今年はこれを観た。『風立ちぬ』ですっかり魅入られてしまって、ということではない。単にこの作品は良さそうだと思ったからである。
ジブリをあまり観る気にならない理由のひとつに、ジブリ映画音楽と僕の相性の悪さが挙げられる。
ジブリの映画音楽はそれ自体がひとつのジャンルとして確立するくらい熱心なファンもいるようだが、申し訳ないが僕は「ひどいなあ」と思うことが多い。
特に選曲のセンスである。今まで映画に使われてきた楽曲が全てひどいなどと言う気はないが、ひどいものが結構多かったとは思う。耐えられないとまで思ったこともある。
なんでいつもこういう声質の、こういう曲調の、こういうアレンジでこういうイメージのものばかりを選ぶのだろう、と思ってしまうことが多い。
その点、この映画のプリシラ・アーンは良かった。宮﨑駿が引いたりして、ジブリも少し若返ったのかもしれない。今回は良い作品を選んだ。
プリシラ・アーンは僕もついこの間までは知らなかったシンガー・ソングライターである。それが、彼女が日本語でカバーしている『風をあつめて』を聴いてぶっ飛んだのである。他にも日本の楽曲をカバーしたアルバムを出している。
そんなことを知った直後に、予告編でこの映画の主題歌"Fine On The Outside"を聴いた。それがこのジブリ映画を観ようと思ったきっかけである。パンフレットを買って歌詞を読むと、その繊細さが改めて突き刺さってくる。
舞台は北海道である。札幌で暮らす喘息の少女・杏奈が主人公。彼女はなかなか周囲に心を開くことができない。そんな彼女が転地療養のために、北海道のどこかの、自然に包まれた田舎町の親戚の家に預けられる。
その家からほど近い入江の岸壁に、地元で「湿っ地屋敷」と呼ばれる洋館が建っている。今では無人だと聞いていたが、ある日杏奈はそこで暮らしている金髪の少女マーニーと会う。そして2人の秘密の交流が始まる。
原作がある。イギリスの有名な児童文学だそうである。今回はそれを日本の話に翻案してある。マーニーはマーニーのままだが、アンナが杏奈になっている。
そのためもあって、マーニーが何者なのかということは、割合早い段階で見当がついてしまう。しかし、そのサプライズが本題ではないので、それでもこの映画の面白さは衰えない。
思春期の少女らしい話である。そしてジブリは、そういう話を体現するのに相応しい実力の持ち主である。
作画の表現力というものにやっぱり圧倒される。それは如何に写実的であるかというところから生まれるものではない。目に見えるものと心に感じるものが繋がっているということである。
風景や建物を描く確かさというものも確かにある。だが、それだけではない。
ちょっと後ずさりするときの人の体の動きや、たじろいだときの顔の表情の動きなど、そういう一切合財のものに対する鋭敏な観察力が積み重なってできたのが、ジブリの画の動きである。そこに構図の鮮やかさが加わって行く。
とても良い映画である。思春期の少年少女に観てほしい。そして、思春期を過ぎた者は、これを観て、今の自分に対して思春期がどのように作用してきたのかを噛みしめるが良い。
パンフ冒頭の三浦しをんの解題が素晴らしい。映画が終わってから、合せてこれもお読みになるのが良いと思う。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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