世代
【6月13日特記】 「やまえーさんが学生の時から、あそこの角は TSUTAYA でした?」と 20代の彼に訊かれて僕は言った。「あのね、僕らの頃にはまだ日本のどこにも TSUTAYA っていう店舗はなかったんや」
僕らは人生の途中で突然現れた画期的なものがたくさんあった。食べ物にしても着るものにしても道具にしても施設にしても──。でも、そうか、ひょっとしたら君らにはそういうものがないのか!と思う。
君らは生まれた時からある程度いろんなものが揃っていて、ちょっとやそっとのことでは驚かないのではないか?
例えば僕らの時代はこうだった:
グレープフルーツって言うからてっきりブドウ系の果物だと思っていたら、なんじゃ、ミカンやないか! それを半分に切って砂糖かけてスプーンで掬って食う(今そういう食べ方をしている人はほとんどいないと思うが)のか!と驚いた。
母が「イタリアのお好み焼きや」と言ってピザを買ってきた日のことを忘れない。
コンビニエンス・ストアというのができたから、どんなものか見に行こうか、なんて言ってた。夜中の11時まで開けて、一体誰が買いに来る?と呆れもした。
僕らはコンビニを、「今までの店より長時間開いている」という量的変化の側面からしか捉えられなかった。買物行動の質的な激変に思い当たったのはコンビニが定着した何年か後だった。
TSUTAYA の前はまずレンタル・レコードだった。僕らはこの新商売のアイデアに心の底から感心した。
借りてきたレコードをダビングする媒体はテープだった。最初は1種類しかなかったテープにクロムや Fe-Cr など新しい種類が出て、ハードのほうでもある日突然高速ダビング機が出てきた。
パソコンも携帯もメールもなかった。それは人生の途中で出てきたのだ。突然出てきて時代を画したのである。
でも、そんな体験は何も僕らの世代に特有のものではなかった。
僕が小学校の頃、テレビでプロ野球中継を見ていたら、NHK のアナウンサーがあるバッターの手袋について触れ、話を解説の鶴岡一人氏に振った。すると、当時すでに「往年の名選手」だった鶴岡氏は突然「私らの頃は軍手と言いました」と語り始めた。
小学生の僕は「なんじゃそりゃ」と笑った。でも、それはどの世代にもあったことなのである。
僕らの上の世代がショックを受けた初登場を僕らが嗤い、僕らがショックを受けた初登場を僕らの下の世代が嗤う。でも、みんなが笑い笑われ笑い合う関係があった。
今の世代にはないのではないか? もちろん世界の外見はどんどん変わっている。でも、その変化のスピードが速すぎるために、変化が連続的であるために、却って個々の変化が見えないのではないか?
思えば大学時代、僕は自分の世代には自分より上の世代のような「仮想敵」がないことをものすごく悔しく思った。
上の世代には第2次世界大戦があり、戦後の焼け跡・闇市があり、ベトナム戦争や安保、学生運動があって、それぞれの世代がそれぞれに「俺たちの時代に俺たちはこんなに辛い目をして戦った」と語った。
僕らの世代には何がある? 万博しかないのか!?(ここで言う万博はもちろん1970年の大阪万博である)と憤った記憶がある。
だが、それもある意味で、どの世代にもある広い意味での「喪失感」の一種である。
今の若い人には何かが出てきた時の驚きもあまりなく、自分たちには何かが欠けているという意識もあまりないのではないか?
「あそこに TSUTAYA ありました?」という話から随分違うところに行ってしまった。自分でも少し飛躍があると思う。
でも、うまく言えないけど、今の若い世代とそれ以外の世代の間には何か決定的な違いがあるように見えてしまう。
事実、僕が「僕らの時代には TSUTAYA はなかった」と言っても、彼は別段驚きもしなかった。
それが何だと言われれば、別に何でもない。でも、何でもない何かが、かつては確かにそこにあったのではないだろうか?
Comments
こんばんは。頷いたりクスクス笑ったりしながら読みました。
私はyama_eighさんよりいくぶん若いですが、グレープフルーツはブドウだと思ってましたよ!砂糖かけてギザギザスプーンですくって食べてました(笑)。
初めてアルバムをレンタルした時もレコードで、自転車のカゴに入らないそれを傷つけないように持ち帰るのに、とても神経を使いました。
思えば、私たちの生きるスピードと無関係に、世の中の変化はまるでスライドショーのようにパラパラとめくられていって
気が付くと、子どもの頃にはなかったもの(家電だけではなく、野菜や果物まで!)に囲まれていますね。
たしかに今の若い人は、そのスピードに慣れているような、「そういうもんだ」という感じているような印象がありますね(諦念?)。
うん。記事を読んで、何だかいろいろと考えさせられました。うまく言えないのですが。
興味深い記事をありがとうございます。
Posted by: リリカ | Saturday, June 14, 2014 22:55